会社に未払いの残業代を精算するよう求めたが拒否された場合、基本的には訴訟手続で請求し、回収することを目指すことになります。
しかし、訴訟である以上、従業員側に必ず有利な判決が出るとは限りません。残業代請求訴訟で少しでも有利な立場で進めるため、あらかじめ残業代請求訴訟の知識を持ち、負けないためのポイントを把握しておくことが重要です。
この記事では、残業代請求訴訟で失敗するケースや訴訟に負けたときのリスクなど、知っておきたいポイントについて解説します。併せて残業代請求訴訟の流れや和解金の相場、残業代請求訴訟を成功させるポイントについて説明します。
従業員側が残業代請求訴訟で失敗する4つのケース
残業代請求訴訟を提起しても準備不足だと、残業代の請求が認められない可能性があります。
また、認められたとしても、獲得できた金額に不満を持つ可能性もあるでしょう。
ここでは、残業代請求の訴訟で失敗する可能性のある4つのケースを紹介します。
①残業や残業代支払いに関する証拠が不十分なケース
残業代請求訴訟で最も重要なのは証拠です。特に労働時間を証明する証拠が不十分だと望んだ結果が得られない可能性がかなり高いです。
例えば、退職後に在職中に時間外労働があったとして未払い残業代である約260万円を請求した事例がありました。
この裁判では、時間外労働があったと推計できる証拠がないことから大部分の残業代は認められず、ごくわずか17万円の支払のみが命じられました。
- 平成31年3月28日 仙台地裁 文献番号 2019WLJPCA03286026
労働時間を証明する証拠は、タイムカードや勤怠記録が最も重要な証拠となりますが、このような記録が存在しないか不正確であるという場合は、別の方法により労働時間を立証していかなければなりません。
この場合にどのような証拠があるかはケース・バイ・ケースですが、例えば業務PCのログインやログオフの記録、業務メールの送受信記録、オフィスの入退室記録等が考えられます。どのような証拠を集めるべきか、弁護士とよく相談することをおすすめします。
②すでに消滅時効が成立しているケース
残業代請求の時効が成立してしまっている場合、請求権がなくなるため訴訟を行うことができません。
残業代の時効は2020年3月31日までに支払期限が到来するものは2年、4月1日以降に支払期限が到来するものは3年です。
この期間が経過した賃金については、会社が消滅時効を援用すると権利が消滅し、請求できなくなります。
消滅時効は極めて強力な抗弁であって、請求できる残業代にダイレクトに関係します。時効は日々刻々と進行しますので、会社に残業代を請求したいと考えた場合、速やかに弁護士に相談して時効の進行を止める手立てを取ってもらいましょう。
③会社からの残業禁止指示を無視して行ったケース
会社から残業を禁止する指示が明確にでており、どうしても残業で処理しなければならない合理的な理由もないという場合には、残業代の支払が認められない可能性があります。
例えば、就業規則などに〇〇時以降・〇時間以上の就業は禁止、終業する場合は上長の承認が必要な旨を記載し、定期的な周知が行われており、かつ、当該労働者に対して従前から「承認のない残業をしてはならない」と個別で注意指導をしているというようなケースがこれに当たります。
労働者が会社に残業代を請求できるのは、このような残業が会社の指示・命令に依るものだからです。「残業するな」と明示しているのに、労働者側が独自の判断で不必要な労務提供を行っても、それは会社の指示命令による労務提供では有りません。このような労務提供は、賃金の支払対象とはならないのです。
なお、労働者が残業をしないよう指示されていても、労働者側で残業をしなければ処理できない事情が認められれば、会社の黙示的な指示・命令があるとして残業代を請求する余地はあります。ただ、この場合には残業をしなければ処理できない事情があったことを労働者側で主張・立証する必要がありますので、請求のハードルは当然高くなります。
④管理監督者の地位にあると判断されるケース
労働基準法第41条第2号では、監督若しくは管理の地位にあると判断される者(管理監督者)は、時間外・休日労働に対する割増賃金の支払対象外となることが定めています。そのため、このような地位にある者が残業代請求訴訟を行っても、その多くは認められない可能性があります。
もっとも、管理監督者であるか否かは会社の肩書(部長、課長、店長、施設長等)で決まるものではなく、以下のような考慮要素を踏まえて客観的に判断されます。
- 働く時間を自分の裁量で決められる
- 経営判断に参加しているもしくは特定の部門(チーム単位では認められない可能性がある)を統括している
- 他の従業員・部下の労務管理上の権限を持っている(採用・昇給・解雇などを決定できる)
- 他の従業員と比較して高額な給与が支給されている
そのため、会社で一定の役職を与えられていても、当然に管理監督者であり残業代を請求できないというものではないことに注意しましょう。
残業代請求訴訟に負けた(敗訴した)後のリスク
残業代請求訴訟に負けた後のリスクを懸念する人も多くいます。
結論からいうと、特に致命的なリスクはなく、あるとすれば訴訟費用や弁護士費用のコストを負担することになることくらいでしょう。
残業代請求訴訟を起こしていることが転職先や新しく働き始めた会社に当然に通知されることはありません。
会社側がいじわるで通知するかもと懸念される人がいるかもしれませんが、そのようなことをするメリットが会社にはなく、杞憂でしょう。
また、残業代請求訴訟に負けると会社から逆に訴訟費用や弁護士費用について支払いを求められるのではないかと不安を持っている人もいるかもしれませんが、そのようなことはないため、心配しないでください。
残業代請求訴訟を起こすときのリスクについて不安であれば、弁護士に確認してみましょう。
残業代請求訴訟で負けないためのポイント
訴訟では証拠をもとに主張を組み立て、裁判官に被告に残業代支払義務があることを的確に理解させることが重要です。そのため、法律の知識・経験のない本人が独自に訴訟を遂行することはあまり現実的ではありません。この場合は弁護士に依頼するべきでしょう。
弁護士にも医師と同様に、得意・不得意な分野があります。残業代請求については、残業代請求の実績がある弁護士への相談がおすすめです。
当サイトベンナビ債権回収(旧:債権回収弁護士ナビ)の弁護士検索より、最寄りの残業代請求が得意な弁護士へ相談しましょう。弁護士にもさまざまな性格の方がいるため、相談してみて、対応が早く信頼できそうと思った相手を選ぶことがポイントです。
残業代請求訴訟の流れと期間
残業代請求の訴訟手続は、以下のような流れが一般的です。
-
STEP1訴状の提出
-
STEP2双方当事者による主張・立証
-
STEP3裁判所による和解提案
-
STEP4証人尋問(和解が困難な場合)
-
STEP5判決
手続の期間は短い場合は半年程度、長い場合は1年程度かかります。ただ、事案によっては3ヶ月程度で和解終了となる場合もありますので、ケース・バイ・ケースです。
なお、残業代請求訴訟は和解で終わる場合がほとんどですが、和解金がどの程度となるかはケース・バイ・ケースです。
原告側に有利な事案であれば、原告の請求額に近い金額になる傾向が強いですし、逆に被告に有利であれば原告の請求額から大幅に減額された金額となる傾向が強いと言えます。
このように、和解金は双方の請求内容に応じて異なりますので、一概にいうことはできません。和解金を提示されたときに金額が妥当かどうかは、弁護士と相談してよく検討することをおすすめします。
まとめ
残業代請求訴訟の基本的な期間や流れ、失敗するケースについて説明しました。
残業代請求訴訟は証拠収集の状況や時効に注意することが重要です。また、残業代を訴訟で請求する場合は労働問題に詳しい弁護士に相談することもポイントになります。
証拠の確保を考えると、在職中からの相談をおすすめします。弁護士によっては退職のサポートも依頼可能です。
【企業/個人事業主の案件注力】IT・エンタメ業界の実績多数!◆債権額150万円以上から対応◆売掛金・請負代金・報酬金等の回収ならお任せください!建設・アパレル等も対応可!【土日対応可】【初回相談30分無料】
事務所詳細を見る【初回面談無料】◆訴訟経験豊富な弁護士が企業/個人事業主/個人間紛争まで迅速・徹底サポート◆行政機関勤務経験有◆提案型コミュニケーション◆具体的な回収プランを分かり易くご説明いたします◆【経歴・実績は写真をクリック】
事務所詳細を見る当サイトでは、有料登録弁護士を優先的に表示しています。また、以下の条件も加味して並び順を決定しています。
・検索時に指定された都道府県に所在するかや事件対応を行っている事務所かどうか
・当サイト経由の問合せ量の多寡
債権回収でお困りなら弁護士へ無料相談がおすすめ
債権回収では、相手の出方や債権額によってはあまり効果が期待できない場合もあり、自分だけで債権回収を行なおうとしても適切な方法を選択することは難しいでしょう。
そもそも、今の状況でどのような方法を取ればいいのかを提案してくれる弁護士は、相談だけでも力強い味方となってくれます。
「ベンナビ債権回収(旧:債権回収弁護士ナビ)」では、債権回収を得意とする弁護士に直接ご相談ができ、相談料無料、初回の面談相談無料、全国対応で相談を受け付けいる事務所も多くいますので、法人・個人問わず、お金のことで悩み続けているなら、一度債権回収が得意な弁護士にご相談ください。
給料・賃金・残業代に関する新着コラム
-
残業代(時間外労働手当など)については、労働基準法で詳細にルールが定められています。会社に対して正しく残業代を請求するため、労働基準法上のルールを理解しておきま...
-
残業代の計算方法は、勤務形態によってさまざまです。労働基準法の割増賃金に関するルールや、勤務形態ごとの残業代計算の考え方を解説します。
-
給料未払いが発生した場合、労働基準監督署に相談すれば、勤務先の会社に対する監督指導が行われる可能性があります。給料未払いがあったときに労働基準監督署で受けられる...
-
給料未払いが発生した場合、相談先としては労働基準監督署・弁護士・司法書士・社会保険労務士などが考えられます。各相談先のメリット・デメリットについて解説します。
-
未払いの残業代を請求するにあたって必ず意識しなければならないのが『時効』の存在です。残業代請求の時効については、近年に法改正がおこなわれて期間が変更されているの...
-
時間外労働に対しては残業代が支払われるのが当然です。しかし、さまざまな理由をつけて残業代を支給しない会社も少なくありません。残業代が発生する仕組みの基本や残業代...
-
残業代請求訴訟では、証拠があっても必ず勝訴できるとは限りません。少しでも有利な立場で進めるためには失敗するケースを踏まえたうえで、それらを回避する必要があります...
-
給料未払いの問題についてはさまざまな回収方法がありますので、状況に応じて適切に判断対応するようにしましょう。また回収にあたっては時効期間もあるため、速やかに対応...
給料・賃金・残業代に関する人気コラム
-
給料未払いの問題についてはさまざまな回収方法がありますので、状況に応じて適切に判断対応するようにしましょう。また回収にあたっては時効期間もあるため、速やかに対応...
-
給料未払いが発生した場合、労働基準監督署に相談すれば、勤務先の会社に対する監督指導が行われる可能性があります。給料未払いがあったときに労働基準監督署で受けられる...
-
未払いの残業代を請求するにあたって必ず意識しなければならないのが『時効』の存在です。残業代請求の時効については、近年に法改正がおこなわれて期間が変更されているの...
-
残業代(時間外労働手当など)については、労働基準法で詳細にルールが定められています。会社に対して正しく残業代を請求するため、労働基準法上のルールを理解しておきま...
-
給料未払いが発生した場合、相談先としては労働基準監督署・弁護士・司法書士・社会保険労務士などが考えられます。各相談先のメリット・デメリットについて解説します。
-
時間外労働に対しては残業代が支払われるのが当然です。しかし、さまざまな理由をつけて残業代を支給しない会社も少なくありません。残業代が発生する仕組みの基本や残業代...
-
残業代請求訴訟では、証拠があっても必ず勝訴できるとは限りません。少しでも有利な立場で進めるためには失敗するケースを踏まえたうえで、それらを回避する必要があります...
-
残業代の計算方法は、勤務形態によってさまざまです。労働基準法の割増賃金に関するルールや、勤務形態ごとの残業代計算の考え方を解説します。
給料・賃金・残業代の関連コラム
-
残業代(時間外労働手当など)については、労働基準法で詳細にルールが定められています。会社に対して正しく残業代を請求するため、労働基準法上のルールを理解しておきま...
-
残業代請求訴訟では、証拠があっても必ず勝訴できるとは限りません。少しでも有利な立場で進めるためには失敗するケースを踏まえたうえで、それらを回避する必要があります...
-
残業代の計算方法は、勤務形態によってさまざまです。労働基準法の割増賃金に関するルールや、勤務形態ごとの残業代計算の考え方を解説します。
-
給料未払いの問題についてはさまざまな回収方法がありますので、状況に応じて適切に判断対応するようにしましょう。また回収にあたっては時効期間もあるため、速やかに対応...
-
給料未払いが発生した場合、相談先としては労働基準監督署・弁護士・司法書士・社会保険労務士などが考えられます。各相談先のメリット・デメリットについて解説します。
-
給料未払いが発生した場合、労働基準監督署に相談すれば、勤務先の会社に対する監督指導が行われる可能性があります。給料未払いがあったときに労働基準監督署で受けられる...
-
時間外労働に対しては残業代が支払われるのが当然です。しかし、さまざまな理由をつけて残業代を支給しない会社も少なくありません。残業代が発生する仕組みの基本や残業代...
-
未払いの残業代を請求するにあたって必ず意識しなければならないのが『時効』の存在です。残業代請求の時効については、近年に法改正がおこなわれて期間が変更されているの...