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ホストが売り掛けを法律に基づいて回収する方法と回収できないケース

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藤田 大輔 弁護士
監修記事
ホストが売り掛けを法律に基づいて回収する方法と回収できないケース

近年、ホストクラブで客に対する売掛金が回収ができずに困っているホストが少なくありません。

売り掛けそのものは違法ではなく、客は支払い義務を負っています。

そのため、客から売掛金の支払いを踏み倒されてしまいそうな場合には、法律に基づいて正しく回収することがとても重要です。

法的に正当に売掛金を回収するには、どのような手続きがあるのでしょうか。

また、売掛金を回収できないケースには、どのようなものがあるのでしょうか。

より確実に回収するために、本記事では法的な売掛金回収の方法やコツなどを紹介します。

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ホストクラブの売掛金とは? | いわゆる「ツケ払い」のこと

売掛金は、ホストクラブでよく活用されている、いわゆる「ツケ払い」のことで、まだ支払われていないものの、将来的に代金を受け取ることができる仕組みです。

とくにホストクラブでは高額のお酒などを注文する客もいるため、当日に飲食代金を支払いきれず、売掛金として支払いの先送りをする客も少なくありません。

ホストクラブの売り掛け金自体は違法ではない

私たちが商品やサービスを購入するとき、代金の支払いと引き換えに、買ったものが自分のものになるというケースがほとんどです。

しかし、インターネット通販などにおいては先に商品を受け取って、代金をあとから支払うパターンもあります。

このように、いつどのような方法でお金の支払いをするのかは、基本的には売主と買手が自由に決めることができます(契約自由の原則)。

以上のことからもわかるように、ホストクラブにおける売り掛けそのものは、違法ではありません。

しかし、ホストクラブの場合は、身の丈に合わないほど高額な飲食代を使ってしまう客が多くいるほか、さらにホストと客の信頼関係による口約束やメモ程度の書面でおこなわれることも少なくありません。

このため、客の資金が尽きたり、客が店に来なくなってしまったために、売掛金を回収することがむずかしくなったという例も見られます。

ホストクラブの売掛金を法的な手段で回収する方法

では、借用書などの証拠書類がなければ回収できない売掛金を諦めなければならないかというと、そんなことはありません。

貸したお金を返してもらうのは、当然の権利です。

ただし、法的に正当な手段で回収を目指す必要があります。

法的手続きのアドバイスや代行は、弁護士に依頼するのが一番です。

ホストが客から売掛金を回収するためにできる法的手続きとして、弁護士から客に連絡して支払いを促す方法があります。

また、それに加え、次のようなものがあります。

支払督促 | 裁判所を通じて相手へ支払いを求める方法

支払督促は、裁判所を通じて債務者に対して債務の支払いを求める手続きです。

本記事のようなホストクラブの事例では、ホストクラブやホストが債権者、客が債務者となります。

債務の支払いとは、売掛金の支払いを指します。

所定の申立書に必要事項を記入し、手数料と書類送付の際に必要な郵便切手などを添えて、債務者である客の住所地を管轄する簡易裁判所に直接もしくは郵送で提出します。

なお、書式や記入例は裁判所のWebサイトから確認・ダウンロードすることも可能です。

支払督促の申立書は自分で記入することもできますが、不備があれば支払督促を発付してもらえないため、弁護士などの専門家に依頼するほうが確実でしょう。

売掛金の支払督促を客が受け取り、支払えない理由や支払わなくてよい理由がある場合には、客は2週間以内に異議を申し立てなければなりません。

客からの異議申し立てがあれば、訴訟へと移ります。

一方、客が異議申し立てをおこなわない場合は、ホストクラブやホストは強制執行に向けて仮執行宣言の申し立てができるようになります。

裁判所から仮執行宣言の発付をしてもらい、仮執行宣言付支払督促の送達から2週間以内に客からの異議申し立てがなければ、仮執行宣言付支払督促が確定し、強制執行が可能となります。

強制執行が可能になると、財産の差し押さえができるようになり、その財産から返金を受けられるようになります。

仮執行宣言付支払督促に対する異議申し立てがある場合も、訴訟に移ります。

このような複雑な流れを踏まえても、専門知識を有する弁護士に相談や依頼をするのが賢明といえます。

訴訟 | 判決次第では強制執行を申し立てられるようになる

前述のように、支払督促または仮執行宣言付支払督促に対して、客が異議申し立てをおこなった場合、訴訟手続きへ移行することになります。

なお、ホストクラブやホストは支払督促の申し立てせずに、はじめから訴訟を提起することも可能です。

訴訟によってホストクラブやホストの主張が認められる判決が確定すれば、客は支払いに応じなければなりません。

もしも、判決がでたのに支払われない場合、ホストは強制執行を申し立てることができます。

これにより、客の預貯金・給与・不動産など、さまざまな財産を差し押さえた売掛金の支払いに充当することで、売掛金を回収することが可能です。

ただし、66万円までの現金や必要最低限の家財道具など、差し押さえができない財産もあります。

また、客の財産が著しく少ない場合は回収できない可能性や、すぐに全額が返ってこない可能性もあります。

なるべく早い回収や確実な回収を目指すためには、やはり弁護士への依頼がおすすめです。

強制執行にいたるまでには、さまざまな手続きが必要です。

自分でおこなうこともできなくはありませんが、不慣れな方が手続きを進めてもなかなかスムーズにはいきません。

弁護士に依頼すれば、手続きにかける労力や時間を仕事に充てることができます。

売掛金の回収ができない場合

売掛金は債権であり、ホストクラブやホストには客から支払ってもらう権利があります。

しかし、売掛金を回収できないケースもあります。

主に、以下のように法的に正当でない方法で売掛金を発生させた場合には、回収できないと考えてよいでしょう。

相手が未成年だった場合

2022年4月1日に民法が改正され、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。

つまり、18歳未満であれば未成年となります。

民法第5条では、未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならないと記されています。

あわせて、法定代理人同意を得ていない法律行為は取り消すことができるとも規定されています(未成年者取消権)。

未成年であっても、お小遣い程度の範囲内であれば取り消すことはできませんが、ホストクラブにおける売掛金はお小遣いの範囲を超えていることがほとんどであると考えられることから、未成年者取消権によって取り消すことができます。

また、そもそも風営法第22条では、ホストクラブを含む風俗営業において18歳未満の方を客として立ち入らせることが禁止されています。

違反すると、1年以下の懲役・100万円以下の罰金・その両方のいずれかが科される可能性があります。

そのため、売掛金を活用して営業をするのであれば、事前に客の顔写真付き身分証明書などで年齢を確認することが重要です。

詐欺・脅迫などの手段で無理やりツケ払いをさせた場合

客への詐欺行為や強迫によって、無理やりツケ払いをさせた場合も、回収することはできません。

民法第96条では、詐欺または強迫による意思表示は取り消すことができると定められています。

今回の例でいう意思表示とは、ツケ払いでサービスの提供を受けるという約束をすることが該当します。

たとえ合意が取れたとしても、詐欺や強迫にあたるような方法で無理やり約束させたものであれば、売掛金を回収することはできません。

売掛金の仕組みを利用するのであれば、客に提案をするときや合意を取るときの態度には十分気をつけましょう。

これは、売掛金を回収するときの態度や方法についても同様です。

ツケ払いをさせた証拠がない場合

ツケ払いをさせた証拠がない場合も、回収できない可能性があります。

民法上、特殊な例を除いて、口約束でも契約が成立します(民法第522条)。

そのため、口約束であっても客は支払う義務を負います。

しかし、いくらホスト側が売掛金が残っていると主張しても、客が「ツケ払いをするとは言っていない」となれば、口約束の場合は証拠が残らず、どちらが真実を話しているのか第三者にはわかりません。

このような事態を避けるためにも、客にツケ払いをさせるのであれば、客の合意を証明できるような署名入りの書類や伝票があれば安心です。

もしも、書面での合意ができない場合には、LINEなどの記録に残るもので合意を得ましょう。

また、たとえ借用書まで準備したとしても、支払うつもりなく虚偽の住所や電話番号を書く悪質な客も少なからずいます。

確実に回収するためには、身分証明書のコピーを残しておくなどの対策が必要です。

消滅時効を迎えた場合

売掛金などの債権には消滅時効があるため、今回の例であれば客から未回収の売掛金をなるべく早い段階で回収することが重要です。

債権の消滅時効は、2017年の民法改正前後で異なります。

現在の消滅時効は、権利を行使できることを知ったときから5年、あるいは権利を行使できるときから10年です。

改正民法が施行された2020年4月1日より前の場合は、原則的として権利を行使することができるときから10年とされており、職種によってさらに短い消滅時効が設定されていました。

なかでも、飲食店の代金債権は1年であり、ホストクラブはこれに該当します。

具体的には、以下のとおりです。

  • 2020年3月31日以前に発生した売掛金:発生から1年
  • 2020年4月1日以降に発生した売掛金:発生から5年

すぐに時効を迎えるほどの期間ではないものの、売掛金の回収は先延ばしにすることなく、消滅時効期間が経過する前に着手することが重要です。

恋愛感情に乗じてツケ払いをさせた場合は、回収できない可能性がある

ホストクラブでは、ホストが客の恋愛感情を利用して接客をおこなうことが多々あります。

恋愛感情に乗じてツケ払いをさせた場合には、売掛金を回収できない可能性があります。

それでは、具体的にどのようなときに回収できなくなるのでしょうか。

消費者契約法第4条第3項第6号には、恋愛感情に乗じた契約の取り消しに関する規定があります。

この規定を紐解くと、次のような条件が揃う場合には、売掛金が回収できなくなる可能性があります。

  • 客の社会生活上の経験が乏しい
  • 客がホストに対して恋愛感情など好意の感情を抱いている
  • ホストも客に恋愛感情など好意を抱いていると、客が誤って信じている
  • 上記を知りながら、飲食やツケ払いをしなければ関係が破綻するとホストが告げた
  • 関係破綻へのおそれなどから困惑し、客が飲食やツケ払いを合意したなど

なかでも注意が必要な点は、客の社会生活上の経験が乏しいかどうかは、年齢だけで決まるわけではないということです。

長いあいだ専業主婦をしていた方など、若年者でなくとも対象となるケースがあり得ます。

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絶対におこなってはいけない違法な回収方法

売掛金が回収できるケースであっても、どんな手段を使ってもよいというわけではありません。

たとえば、次のような手段を用いて売掛金を回収するのは違法です。

絶対に、おこなわないようにしましょう。

恐喝や住居侵入などで強引に回収しようとすること

当然のことながら、恐喝や住居侵入など、刑法上の犯罪に分類されるような行為で売掛金を回収するのは、やめましょう。

逮捕や勾留をされてしまうおそれがあり、起訴されると有罪となる可能性が高く、刑事罰を受ける可能性があります。

恐喝は10年以下の懲役、住居侵入は3年以下の懲役または10万円以下の罰金が、それぞれ法定刑として定められています(刑法第249条、第130条)。

具体的には、売掛金を滞納した客に暴行や脅迫によって支払いを求める行為は恐喝(ケースによっては強盗)に該当します。

また、正当な理由なく客の家などに侵入することで住居侵入罪が成立します。

このとき、売掛金回収が正当な理由として通用すると考えるのは難しいでしょう。

さらに、売掛金回収のために住居侵入をおこない、客がいないあいだにお金を取り返すなどすれば窃盗罪に該当します。

窃盗罪の場合は、法定刑として10年以下の懲役または50万円以下の罰金が定められています(刑法第235条)。

資格をもたない業者に依頼して回収しようとすること

客からの売掛金回収を、自分以外の誰かに代行してもらう場合、委託できる専門家は弁護士または認定司法書士に限られます。

さらに、認定司法書士への委託ができるのは、売掛金が140万円以下のときに限られます。

それ以上の額である場合には、弁護士に依頼するほかありません。

弁護士でもなく、認定司法書士でもない方が債権回収をおこなうことを非弁行為といい、弁護士法第72条に違反します。

たとえ債権回収や売掛金回収を専門とする業者だと名乗っている組織であったとしても、弁護士や認定司法書士が担当するのでなければ違法となるため注意が必要です。

反社会勢力に依頼して回収しようとすること

暴力団員などの反社会的勢力に売掛金の回収を依頼するのは、絶対にやめましょう。

反社会的勢力への依頼は脅迫などを伴うケースも少なくなく、関与の程度によっては共犯とされるおそれがあるため注意が必要です。

反社会的勢力に依頼料を支払うのであれば、弁護士への依頼料に使い、真っ当な方法での回収を目指すべきです。

売掛金の回収は弁護士に依頼するとよい理由

すでに紹介したように、売掛金を回収するなら弁護士に依頼するのが一番です。

ここまで説明したほかにも、弁護士に依頼するとよい理由は多くあります。

ここでは、弁護士に依頼するとよい理由を3つ紹介します。

相手へプレッシャーを与えることができる

弁護士がホストクラブやホストから依頼を受けると、まずは請求書面を作成して客に内容証明郵便で送付するのが一般的です。

請求書面そのものに法的な拘束力はありませんが、弁護士からの通知によってプレッシャーを与えることができます。

ホストからの連絡だけでは支払いを免れたり、支払うまでの期間を簡単に延長できると考えていた客であっても、弁護士からの通知があれば、期限内に支払わなければ訴訟を起こされるかもしれないと考える可能性があります。

それによって、実際に訴訟を起こす前に、支払いや話し合いに応じるようになるケースは少なくありません。

訴訟までするのは気が引けるという場合であっても、まずは弁護士を通じた請求をしてみましょう。

法的な手続きによって、相手に支払いを求めることができる

どのような回収方法が正当で、どのような回収方法が違法となり得るのかを、専門家でない方が判断するのは容易ではありません。

自分では脅しているつもりがなくとも、強迫に該当してしまうケースなどもあります。

また、自分なりに誠実に客に支払いを請求しても、一向に応じられないこともあるでしょう。

そのようなとき、法的な手続きをおこなうことで、回収できる可能性は格段に高まります。

法的な手段についての知識や経験をほとんどもたない方が、どのような手続をどのようなタイミングで実施するべきかを見極めるのも容易ではありません。

また、法的手続きをおこなうには、裁判所の指定する書式での書面提出や訴訟提起が必要です。

本業の傍らで、不慣れな書類作成などを進めるのは負担が大きいでしょう。

弁護士であれば、どのような法的手続きであってもスムーズに進めることができます。

これまでの知識や経験から適切な方法とタイミングで進められるため、実際に売掛金を回収できる可能性も高くなります。

確実な回収に繋げるためには、弁護士に依頼するのが一番です。

複雑で手間のかかる手続きを全て弁護士に任せられる

複雑で手間のかかる手続きを全て任せられることも、売掛金の回収を弁護士に依頼するメリットです。

弁護士に依頼するまでには、すでに売掛金を支払わない客への連絡やお願いを重ねてきたはずです。

それでも支払わない客に対して交渉を続けるのは、非常にストレスがかかることです。

また、支払催促・訴訟・差し押さえのための手続きを、慣れていない方が仕事の合間におこなうのは非常に困難です。

弁護士に依頼すれば、客との連絡や交渉はもちろん、どの手段を取る段階においても煩雑な手続きを一任することができます。

さいごに | 売掛金の回収で困ったら弁護士へ相談を

客からの売掛金の回収ができずに困っているなら、早めに弁護士に相談しましょう。

とくに近年は、ホストクラブでのツケ払いが原因でさまざまな事件に発展し、ニュースなどで報道されることも増えています。

自力での回収は、トラブルの元にもなりかねません。

法律に基づいた正しい手続きによって、より確実に回収するためにも、ぜひ債権回収に注力している弁護士などの専門家を頼ってください

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この記事の監修者
梅田日輪法律事務所
藤田 大輔 (大阪弁護士会)
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編集部

本記事はベンナビ債権回収(旧:債権回収弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ債権回収(旧:債権回収弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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