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病院経営をおこなううえで「入院費の未払い」は大きな問題の一つです。
日本医師会の調査によると、入院設備がない診療所に比べ、入院施設のある診療所は未収金が約5倍近く多くなっていることが判明しました。
未払い分については、債務者である患者に対して回収対応を進める必要がありますが、状況によって取るべき対応内容は異なります。
また入院費には時効も定められており、時効への対応が必要なケースもあります。
本記事では、未払い分の入院費を回収する方法や時効、弁護士に相談するメリットなどを解説します。
未払い分の入院費については、相手方へ直接対応する任意的手段による回収のほか、裁判所を介して対応する法的手段による回収などの対応があります。
また対応にあたっては、患者本人から回収するのが通常ですが、回収が難しい場合などは保証人に対しておこなうことになります。
それぞれの主な回収方法は以下のとおりです。
任意的手段による回収 |
法的手段による回収 |
---|---|
・電話、メール、訪問による催促 ・内容証明郵便 |
・民事調停 ・支払督促 ・訴訟 ・強制執行(差押え) |
また「法的手段による回収」の場合、裁判所より請求が許可されることで、権利法律関係を確定する公的文書である債務名義が取得できます。
債務名義があることで、相手方が支払いに応じない場合などは強制執行手続きに移行することができます。
ここでは、入院費の未払い分の回収方法を解説します。
電話・メール・訪問などにて、相手方に対して直接催促するという方法です。
ほかの回収方法に比べて、時間・労力もさほどかからないため、まずは催促をおこなって相手方の支払意思などを確認しておくべきでしょう。
債務を支払うよう記載した催告書を作成したのち、内容証明郵便にて送付するという方法です。
内容証明郵便とは、記載内容や差出日時などの書類情報について、日本郵便が証明をおこなう制度です。
債務者に対して、債務の支払いを強制する効力はありませんが、訴訟に発展した場合は特定の日時に当該内容の郵便を発送した証拠として働きます。
下記で説明する消滅時効が問題となるような事案であれば、このような催告の日付は重要となる場合がありますので、内容証明郵便を使用する方が適切です。
他方、そうでない事案であれば、必ずしも内容証明郵便によらなければならないというわけではありません。
なお内容証明郵便にて送付する際は、以下の規定を満たしている必要があります。
※句読点・括弧は1字に数える。 |
また一般的に、以下のような形式で作成します。
裁判所にて、裁判官・調停委員の立ち合いのもと、相手方と協議するという方法です。
協議をおこなって調停成立した場合、それぞれの合意内容を記した調停調書を取得することができます。
調停成立したにもかかわらず、相手方が調書内の義務を履行しない場合などは、強制執行へ移ることができます。
ただし民事調停に参加するかどうかは相手方が自由に判断する事柄であり、相手方には手続への参加義務はありません。
また、相手方は手続きに参加したとしても協議や合意を強制されることは一切なく、申立人側の提案を拒否することも完全に自由です。
したがって、相手方に対応意思がないことが明らかである場合などは、調停の成立見込みはないため、別の方法によって回収対応をおこなうべきでしょう。
簡易裁判所を通じて相手方に対する督促状の作成・通知をおこなってもらう、という方法です。
督促状による通知がおこなわれたのち、一定期間を過ぎても相手方からの異議申立てがおこなわれなければ、督促状に記載された権利義務関係について認められ、強制執行へ移ることができます。
なお、支払督促の場合は、書類審査によって手続きが完了するため、出廷などの裁判手続きをおこなう必要はありません。
訴訟などと比べると、短期間で手続きを済ませることができます。
ただし、督促状による通知をおこなったのち、相手方によって異議申立てがおこなわれた際は、訴訟へ移ることになります。
債務の支払いに関する訴訟提起をおこない、権利関係の有無について裁判所による確定を求める、という方法です。
手続きをおこなったのち、裁判所によって「請求には理由があり一定の権利を有している」などの判決が確定した場合、強制執行へ移ることができます。
ただし訴訟の場合は、裁判所への出廷や裁判書類の用意など、さまざまな対応が求められます。
ほかの法的手段と比較すると大きな手間・労力がかかるため、法律知識・経験が豊富な弁護士にサポートを得たうえで進めるべきでしょう。
相手方の保有財産について差押えをおこなうことで、債権の満足を強制的に得るという方法です。
なお、手続きの実施にあたっては、権利法律関係を確定する公的書類である債務名義が必要です。
なお回収結果については、「相手方がどれほどの財産を所有しているか」によって大きく異なります。
相手方が、差押え対象となる財産を十分に保有していない場合などは、理想どおりの結果とならないこともあります。
入院費には時効が設定されています。
回収対応をおこなわないまま放置していると、時効が成立して回収不可能となることもあるため、速やかに対応する必要があるでしょう。
ここでは、入院費の未払い分の回収期限を解説します。
入院費の時効期間は、2020年4月1日より前に発生したものであれば3年、同日以降に発生したものであれば5年と設定されています。
また、時効の起算点(時効が開始される日)は、支払期限の翌日です。
入院費の時効については、以下の手段によって中断することが可能です。
ここでは、入院費の時効を中断する方法を解説します。
請求には、裁判所を介しておこなう「裁判上の請求」のほか、裁判所を介さずにおこなう「裁判外の請求」などがあります。
裁判上の請求としては、「入院費の未払い分の回収方法」で解説した民事調停・支払督促・訴訟などがあります。
裁判上の請求をおこなったのち、債権を確定する債務名義を取得することができれば、取得後10年間は時効消滅しません。
裁判外の請求としては、「入院費の未払い分の回収方法」で解説した、内容証明郵便による催告書の通知があります。
裁判外の請求をおこなうことで、時効完成を一度のみ6ヵ月間停止できます。
「入院費の未払い分の回収方法」で解説した差押えのほか、差押えの前段階にあたる仮差押え・仮処分などによっても、時効は中断されます。
仮差押え・仮処分とは、相手方が財産処分などをおこなって、差押え対象となる財産が散逸することを避けるため、事前に固定しておく手続きを指します。
なお、差押えにあたっては債務名義を取得している必要がありますが、仮差押え・仮処分については不要です。
差押えや仮差押え・仮処分をおこなったのち、裁判所にて申立てが許可されれば、裁判所によって指定された期間だけ時効を延長できます。
債務承認とは債務の存在について認める行為を指します。
債務者によって、以下に挙げた債務承認がおこなわれることで、時効が中断されます。
債務承認されることで時効は振り出しに戻り、一からやり直すことになります。
また債務承認は、時効期間を過ぎている場合であっても適用対象となります。
すでに時効期間を過ぎている場合でも、なかには回収可能性が残っているケースもあります。
時効が成立するための条件として時効の援用があります。
時効の援用とは「時効が成立していることを主張する手続き」のことで、時効期間を過ぎていても、債務者が時効の援用をおこなわない限り時効は成立しません。
したがって、債務者による援用前に債務承認がおこなわれた場合については、時効期間がリセットされて援用できなくなるため、回収対応が可能です。
これは債務承認特有の効果です。
医師には患者に対して、「正当な理由なく診察拒否してはならない」という応召義務が課されています(医師法第19条)。
正当な理由としては、診察対応する余裕がないことが明らかである場合や、医師にとって専門外の分野について診察を要求された場合などがありますが、入院費の未払いに関する明確な記載はありません。
また、昭和24年に厚生労働省が発表した「病院診療所の診療に関する件」にも、「医療費の未払いを理由に、直ちに診察を拒否することはできない」と示されています。
したがって、入院費が未払いであることを理由に、患者に対して強制退院や診察拒否などをおこなうことは原則困難と考え、通常どおりの対応をおこなう必要があるでしょう。
相手方から速やかに入院費の未払い分を回収するには、状況ごとに「どのような対応が適切か」を判断したうえで、速やかに対応を進める必要があります。
対応内容によっては望み通りの結果とならないこともあるため、スムーズに進められる自信がない場合は、債権回収について実績のある弁護士に相談するのが効果的です。
弁護士に依頼した場合、これまでの知識・経験などを活かして、今後取るべき対応について有効な助言が望めます。
また回収対応にあたって、弁護士名義での催告書通知や相手方との交渉代理、裁判書類の準備や訴訟対応の代理なども依頼できます。
対応について少しでも不安がある場合は、弁護士に相談すると良いでしょう。
未払い分の入院費については、電話による催促や内容証明郵便による通知、支払督促の申立てや訴訟の提起など、さまざまな回収方法があります。
「任意的手段による回収が難しい場合は、速やかに法的手段に移行する」など、相手方の対応内容によって柔軟に対応する必要があります。
さらに入院費の時効は、2020年4月1日より前に発生したものであれば3年、同日以降に発生したものであれば5年と設定されており、時効成立が近づいている場合などは、請求や差押えといった時効の中断などの対応が必要なケースもあります。
回収対応をおこなううえで、適切に進められるか不安がある場合は、債権回収について実績のある弁護士にサポートを依頼することをおすすめします。
弁護士に依頼することで、回収方法のアドバイスや回収対応のサポートなどが受けられ、自力で対応するよりもスムーズな解決が見込めます。
債権回収に注力している弁護士であれば、回収対応についてのアドバイスや各手続きについてのサポートなどが受けられるため、スムーズな回収が望めます。
特に、自力で回収対応を進める自信がない場合などは依頼することをおすすめします。
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債権回収では、相手の出方や債権額によってはあまり効果が期待できない場合もあり、自分だけで債権回収を行なおうとしても適切な方法を選択することは難しいでしょう。
そもそも、今の状況でどのような方法を取ればいいのかを提案してくれる弁護士は、相談だけでも力強い味方となってくれます。
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