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仮差押えは、債権を回収するための一時的な措置ですが、仮差押えには供託金が必要になります。
仮差押えを申し立てたい方やすでに申し立てた方にとっては、供託金の金額や返金の方法は気になるところです。
供託金がどれくらいの金額になるのか、無事に債権を回収できたら取り戻すことができるのかなどを理解することで、安心して手続きをすすめられるでしょう。
本記事では、仮差押え手続きにおける供託金の基礎知識や、還付の大まかな流れについて説明します。
手続きをスムーズに進めるための具体的なポイントを押さえておきましょう。
まずは、供託金についての基礎知識を説明します。
供託金とは、一定の要件を満たすことで、あとから還付または取り戻しがなされることを条件に預け入れる金銭のことを指します。
担保金の一種で、保証金とも呼ばれます。
そもそも担保金は、特定の法律手続きにおいて、申立人が被申立人に対して不当な損害を与えた場合に備えて預けられるものです。
仮差押えの手続きにおいても、供託金が必要になります。
たとえば、AさんがBさんに多額のお金を貸していたとします。
Bさんがいつまでも返済しないとなると、Aさんが申立人となりBさんの財産を仮差押えすることがあるでしょう。
仮差押えとは、Aさんが訴訟を提起してから勝訴判決を得るまでのあいだにBさんが財産を処分してしまうことを防ぐための手続きです。
Bさんが財産を処分してしまうと、Aさんが実際にお金を回収することが困難になるため、事前に財産を差し押さえることができるのです。
民事保全法上に基づいて、将来の強制執行に備えて、相手の財産を仮に差し押さえることが認められています。
この例の場合、裁判所の判決として「BさんからAさんに対してお金を返しなさい」という結論が出るのであれば、Bさんの財産を差し押さえるのは妥当です。
しかし、裁判が終わっていない時点では、BさんからAさんへお金を返す必要がないという判決が出る可能性もあります。
仮に、BさんからAさんへお金を返さなくてよいという判決が出た場合、Bさんにとっては仮に財産を差し押さえられていた期間に迷惑や不便を被り損害が発生することもあります。
このような被申立人が被る可能性のある損害を担保するために、申立人は供託金を預け入れなければならないのです。
供託金を納付するのは、仮差押え手続きに関与した裁判所の管轄区域内の供託所です。
供託所の管轄は、民事保全法第4条第1項や民事訴訟法第405条の各供託根拠法令に定められています。
詳しくは、最寄りの供託所に連絡をすれば案内してくれるので、問い合わせてみましょう。
仮差押えを申し立てると、審理がおこなわれます。
仮差押えの審理では、裁判のように多くの時間をかけて債権の存否を精査するわけではなく、書面審査のみです。
裁判所によっては債権者面接を原則要するところもあります。
そのため、順調に行けば、申し立てをしてから2,3日、遅くとも1週間程度で審理の結果が明らかになります(複雑な事案はそれ以上日数を要する場合もあります。)。
審理の結果、裁判官が仮差押え命令の要件を満たしていると判断すれば、担保決定がなされるのです。
審理のあとは、申立人に対して担保決定の告知とともに担保金の供託が求められるので、申立人は原則として7日以内に担保を提供しなければなりません。
多くの裁判所では担保決定の告知を受けたあとに担保提供をおこなう予定日を速やかに担当の書記官へ連絡することとしています。
また、担保を供託したら、その証明書を裁判所に提出してはじめて仮差押命令が発令されます。
供託金は、当該訴訟が終わるなど一定の事由があれば取り戻すことができます。
仮差押えの供託金は、仮差押えによって被申立人に不当な損害を与える可能性があることから設けられている担保です。
そのため、訴訟によって勝訴判決や被申立人から申立人へ金銭の支払いを命じる判決などが出た場合は、担保を取り戻すことができます。
これは、被申立人に不当な損害を与えた可能性がないためです。
供託金の還付や取り戻しを受ける方法はほかにもあり、本記事内「供託金の還付(担保取消し)が認められる3つのケース」で紹介しますので、参考にしてください。
仮差押えを実行したいけれど、担保金の金額によってはハードルが高いと感じる方もいるでしょう。
供託金の金額は、差し押さえる物が不動産・動産・債権などのいずれにあたるのかや、事案によって異なります。
また、差押さえをするのが一応は妥当だということを裏付ける証拠資料の信頼度によっても異なるでしょう。
供託金の金額相場は、一般的に差し押さえる目的物の価格に対して10%〜30%前後だとされています。
不動産の仮差押えであれば5%〜35%程度、債権の仮差押えであれば10%〜40%程度になることが多いです。
債権のなかでも、預金債権を仮差押えする場合は10%〜35%、売掛金10%〜30%となることが多いでしょう。
つまり、A社がB社に1,000万円分の商品を納品したにも関わらず、待っていても支払いがなされないというとき、B社の銀行口座にある預金1,000万円を差し押さえるなら、供託金は100万円〜350万円程度です。
一方、B社の預金ではなく、B社の取引先であるC社からB社に支払われる予定の売掛金1,000万円を仮差押えする場合、供託金は100万円〜300万円程度になるということです。
仮差押えの供託金を取り戻せるときとして、民事保全法4条2項と民事訴訟法79条1〜3項では次の3つを定めています。
なお、担保権利者とは仮差押えの被申立人のことで、債務者のことを指します。
以下では、供託金を取り戻せるケースについて、詳しく見ていきましょう。
仮差押えの申立人が訴訟を提起して、勝訴判決や被申立人から申立人へ金銭の支払いを命じる判決などが出た場合は、担保を取り戻すことができます。
ただし、基本的には仮差押えをおこなった全部について訴訟で勝訴することが条件です。
たとえば、500万円の仮差押えをおこなっていたときに供託金を取り戻せるのは、裁判で債務者に500万円の支払い命令が下されたときです。
一方で、訴訟内容の一部に敗訴部分があった場合は、債務者が一定の期間内に損害賠償請求権を行使しない場合には、供託金を取り戻すことができます。
つまり、500万円の仮差押えをおこなっていたとして、裁判で債務者に100万円しか支払い命令が下されなかったときなどは、全面勝訴ではありませんので、債務者が期間内に損害賠償請求権を行使しない場合に供託金を取り戻すことができるでしょう。
また、裁判上で債務者が請求を認諾したり、裁判上の和解や調停が成立したりしたときにも、供託金を取り戻すことができます。
債務者が担保取消に同意した場合も、担保金を返還してもらうことが可能です。
同意を証明するために、同意書と同意書に押した印鑑の印鑑証明書を提出しなければなりません。
ただし、訴訟を通じて和解が成立した場合は、印鑑証明書の提出は不要です。
実務では、債権回収問題が和解で解決されることも多く、その場合は和解条項に「被告は、原告の仮処分命令申立事件について供託した担保の取り消しに同意し、取り消し決定に対して抗告しない」などの文言が盛り込まれます。
そのため、債務者の同意があるとみなされます。
訴訟が提起されている場合は、訴訟が完結したあとで裁判所から一定期間内での損害賠償請求権を行使すべき旨が催告されます。
また、訴訟がはじまる前に、申立人が仮差押えを取り下げたときも、裁判所は被申立人に対して、一定期間内に損害賠償請求権を行使すべき旨を催告します。
なぜなら、取り消されたとしても一時的には仮差押えがなされていたため、不利益を被っている可能性があるからです。
不利益がなく、期間内に損害賠償請求をしなければ、担保取消に同意したものとみなされ、供託金は申立人に返還されます。
供託金を取り戻すには、どのような手続きが必要なのでしょうか。
大まかな流れを紹介します。
供託金の払渡請求をおこなうためには、供託所にある払渡請求書が必要です。
書類に必要事項を記入し、指定された書類を添えて供託所へ提出しましょう。
なお、払渡請求書は供託所の用紙だけでなく、コピーしたものやホームページから印刷したものを使用しても問題ありません。
原因 |
必要書類 |
---|---|
勝訴が確定した場合 |
担保取消決定申立書・全部勝訴判決書の正本など事由が消滅したことを証明する文書・判決確定証明書・供託原因消滅証明申請書の正本と副本・受領書・郵便切手1,194円×被申立人数分(東京地裁の場合) |
債務者の同意があった場合 |
担保取消決定申立書・同意書又は和解調書・被申立人の即時抗告権放棄書・供託原因消滅証明申請書の正本と副本 |
債務者が期間内に損害賠償請求権を行使しなかった場合 |
担保取消決定申立書・判決正本などの訴訟が終了していることを示す文書・供託原因消滅証明申請書の正本と副本・受領書・郵便切手1,194円×2×被申立人数分(東京地裁の場合) |
書類が準備できたら、担保提供を命じた裁判所にて担保取消しの申し立てをおこないましょう。
裁判所が担保取消しを決定すれば、担保取消決定確定の証明文書が交付されます。
担保取消決定確定の証明文書の交付を受けたら、供託所に提出して供託金を取り戻しましょう。
なお、払渡請求自体を法務省ホームページの「オンラインによる供託手続」ページからおこなうことも可能です。
原則として本人が請求しなければなりませんが、代理人などによる請求も可能なため、弁護士に相談し、依頼してもよいでしょう。
仮差押えの供託金は、取り戻しができるとはいえ、取り戻すまでに時間がかかるなどいくつかの注意点があります。
ここでは、仮差押えの供託金に関する主な3つの注意点を紹介します。
仮差押えをする際の供託金の相場は、目的物の価格の10%~30%程度です。
そのため、供託金の金額によっては仮差押え自体のハードルが高くなることがあります。
たとえば、支払いをしない取引先が所有する不動産を仮差押えする場合、15%〜20%程度の供託金が必要です。
不動産の価格が1億円であれば、1,500万〜2,000万円もの金額が必要と、かなり高額な供託金が必要になります。
回収できていない売掛金の金額や目的物によっては、高額な供託金が必要となるケースもある点は注意しましょう。
供託金が取り戻せる状態になってから、実際に取り戻せるには、どれくらいの時間がかかるのでしょうか。
供託金を取り戻すまでの期間は裁判所によって異なる可能性もありますが、目安を紹介します。
まず、裁判所で担保取消しが決定されると、供託原因消滅証明書が交付されます。
交付までにかかる日数の目安は、取り戻せる理由によって以下のように異なります。
そのうえで、必要書類を供託所に提出することになります。
提出した書類に不備がなければ、供託金は指定した預貯金口座に7日〜10日程度で振り込まれるでしょう。
仮差押えの供託金が返還されないケースは稀です。
供託金が返還されないのは、仮差押えが違法であった場合で、相手に損害を与えたときです。
簡単な審理であるとはいえ、裁判所を介して仮差押えが認められるため、違法な仮差押えが発生するケースは少ないといえます。
もしも違法であったとして、必ずしも相手に損害が発生するわけではありません。
また、債権回収のための訴訟で敗訴したとしても、それで直ちに不法行為が成立するわけではありません。
しかし、相手に損害が生じ、それが仮差押えのせいであったという因果関係が認められた場合は仮差押の申立に相当な事由があったことを証明しなければ、賠償責任が生じる可能性があります。
仮差押えをおこなうかどうかは、慎重に判断するべきでしょう。
なお、確実に勝訴する場合であっても、供託金は必要性がなくなるまで返還されないことは留意すべきです。
供託金を取り戻すには判決が確定するか、和解や調停が成立するか、債務者が同意するか、請求が認諾されるかなど、状況が整わなければなりません。
訴訟をすると、判決が出るまでに1年以上かかることも珍しくありません。
和解によって解決するとしても、同じくらい時間がかかることはよくあるでしょう。
その間は供託金を取り戻すことができないのです。
また、供託金の取り戻しには消滅時効の適用があるので注意が必要です。
供託金の取り戻しは債権回収の一種です。
2020年4月施行の改正民法に則り、権利を行使できることを知ったときから5年、または権利を行使できるときから10年のいずれか早いほうが時効として適用されます。
消滅時効の期間が過ぎると、供託金を取り戻せないので注意しましょう。
仮差押え手続きにおける供託金について、手続きの煩雑さや金額の大きさから、不安や疑問を持つ方は珍しくありません。
供託金を取り戻すための流れや金額に関する情報は大切ですが、個々のケースによって必要な対応や手続きが異なる場合があります。
そのため、専門的な知識と経験を持つ弁護士に相談するのがおすすめです。
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