差押えすれば、諦めていた債権を回収できる可能性があります。まずは差押えで債権回収に成功した事例や、弁護士の選び方を確認しましょう。
債務者から弁済を受けられない場合、最終的には裁判所を介して債務者の財産を差し押さえることになります。財産の種類によって差押えの方法は異なりますが、各差押えの手続きの方法について事前に知っておくべきでしょう。
今回の記事では、財産の種類ごとにおける債務者の財産を差し押さえる方法、差押えを成功させるための必要事項を紹介していきます。
財産の差し押えをご検討中の人へ
財産の差し押さえが成功すれば、滞納している債権を回収できるかもしれません。その分、タイミングなどが重要になります。財産の差し押さえ(強制執行)をご検討中の方はできるだけ早く弁護士にご相談ください。弁護士に依頼するメリットは以下の通りです。
- 差し押さえのタイミングの検討
- 差し押えの手続き・書類作成
- 差し押え後の債権回収・手続き
- 債務者との交渉 など
弁護士に依頼することで、最大限の金額を回収できる可能性があります。債債務者が破産・再生手続きを行う前に、弁護士にご相談ください。
債務者の財産を差し押える前に押さえておくべき知識
差押えとは、裁判所を介して債務者が所有する財産に関する権利を強制的に申立人に移すための手続きです。
各執行手続きの対象となる財産
差押えは、財産の種類によって申立方法が異なりますが、不動産執行、動産執行、債権執行の3つにわけることができます。
不動産執行
不動産執行とは、債務者の自宅、自社ビルを所有する権利や、地上権(債務者の土地ではないが工作物、竹林などを所有するために土地を使用する権利)を対象とした差押えです。
動産執行
対して動産執行は、現金や、自動車、骨董品、貴金属、小切手、株券など換金価値のある財産を対象とした差押えになります。
債権執行
債権執行は、債務者が所有する債権を差し押さえるための手続きです。債権執行をすると、対象の債権の債務者(第三債務者)から弁済を受けることができます。個人の債務者が所有する債権には、給料債権、預金債権があげられますが、相手が事業主の場合は売掛金債権、貸与金債権を差し押さえることが一般的です。
参考:「預金口座の差し押さえによって確実に債権回収するために必要な知識」
差し押さえ不可能な財産
衣類や家具など生活に必要な物は差し押さえることはできません。これは債務者の生活を最低限保障しなければならないためです。また、給与債権に関しては1/4までが差し押さえの上限金額であり、養育費の回収を目的とした場合に限り1/2まで差し押えることができます。
参照:「強制執行で差し押さえするために必要な知識と方法のまとめ」
債務者の財産の差し押さえをする前に必要な手続き
差押えをするためには、強制執行の申立てをしなければなりませんが、申てをするためには債務名義を取得していなければなりません。
債務名義の取得
債務名義とは、債権の内容を公的に示すための書証です。債務名義は、債務者との話合いまたは、訴訟を介して取得することができます。以下は、各債務名義の取得方法になります。
- 公正証書:債務者との話合いの元に作成される契約書であり公証役場にて公証人の立ち合いの元に作成される書類
- 調停調書:民事調停において調停委員によって作成される書類であり債務者の同意が必要
- 仮執行宣言付支払督促:支払督促によって得られる証書。金銭債権のみを対象としている
- 少額訴訟判決:60万円以下の金銭債権を対象とした少額訴訟によって得られる証書
- 和解調書:訴訟手続きの途中で債務者と和解した場合に作成される調書
- 仮執行宣言付判決・確定判決:訴訟によって得られる証書であり一番確実性の高い債務名義
【参考】
▶「少額訴訟の金額と請求可能な金額|少額訴訟の条件と手続き」
▶「債権回収の民事訴訟を起こす上で押さえておきたい知識まとめ」
執行文付与の手続き
また、差押えを申し立てるためには、債務名義に強制執行できる状態であることを示した執行文が付与されている必要があります。執行文を付与させるためには指定の手続きをしなければなりませんが、少額訴訟判決と仮執行宣言付支払督促に関しては元々、執行文が付与されているため手続きは必要ありません。
公正証書
公正証書に関しては、証書を作成した公証人へ執行文付与を作成してもらうことになりますが、その際に手数料の1,700円と共に以下の書類が必要になります。
- 公正証書の正本
- 戸籍謄本
- 住民票
- 免許証
- 印鑑
- 印鑑証明書
和解調書・調停証書・(仮執行宣言付)判決
和解調書、調停証書、(仮執行宣言付)判決に関しては、債務名義を作成した裁判所の書記官へ執行文付与の作成を依頼することになります。執行文を作成してもらうためには、収入印紙(印紙代が300円)が貼られた申立書、債務名義の正本が必要です。
申立書の作成方法については「債務名義の執行文付与の申し立て」を参考にしてください。
債務名義の送達証明申請
差し押さえは、債務者へ債務名義の謄本または正本が送られた状態でなければ、申し立てることはできません。債務者へ債務名義を送達させるためには、債務名義が作成された裁判所の担当書記官へ送達の申請を行います。
申請は、収入印紙(印紙代:150円)が貼られた申請書を提出する必要がありますが申請書の作成方法については「債務名義の送達証明申請」を参考にしてください。
債務者の財産を差し押さえる方法
債務者の財産の差し押さえを申し立てるための準備が整ったところで、各財産の種類ごとの差し押さえの手続きの方法を確認していきましょう。
不動産執行
まず、不動産の差し押さえをするためには、不動産を管轄する地方裁判所へ申立をします。申立には以下の書類が必要です。
- 不動産強制競売申立書
- 債務名義の正本
- 送達証明書
- 当事者目録
- 物件目録:差押対象の物件の情報
また申立費用として収入印紙代の4,000円、予納金の60万円以上、登録免許税の確定請求債権額の4/1,000が発生します。申立書類の記載方法は、「強制執行申立から差し押さえまでの流れ」を参考にしてください。
申立後の流れ
申立が完了すると行政から、対象の不動産の最低売却価格を算出するための調査が行われます。調査の完了次第、競売の手続きが行われますが、競売で落札された金額が債権者へ配当される仕組みです。
不動産は高額な資産ですが、不動産に住宅ローンが残っている場合、ローンの返済のための配当が優先的に行われます。そのため十分な弁済を得られないこともあるので、他の財産の差押えも検討するべきでしょう。
不動産の差し押さえ方法について詳しくは以下の記事を参考にしてください。
参照:「不動産を差し押さえる方法と確実に債権回収するために必要なこと」
動産執行
現金や車、株券など換金価値のある財産を差し押さえるためには、債務者の住所を管轄する地方裁判所に所属する執行官へ動産執行を申し立てなければなりません。申立には、債務名義の正本、申立書が必要ですが、申立書は執行官室に用意されています。
申立書には、指定された箇所へ必要事項を記載した上で印鑑を押してください。申立費用には、収入印紙代の4,000円、郵券切手代の3,000円、予納金の3万円~5万円がかかります。
申立後の流れ
申立が完了すると、執行業者が債務者の自宅へ差押さえをします。現金は差し押さえの際に、その場で受け取ることができますが、他の換金価値のある資産は競売にかけられ換金された上で、配当される仕組みです。
債権執行
債権の差し押さえは、債務者の住所を管轄する裁判所にて申立をしますが、提出書類は以下の通りになります。
- 債権差押命令申立書
- 当事者目緑
- 請求債権目録:債権者が債務者に対して有する債権の一覧
- 差押え債権目録:差押対象の債権
- 債務名義(執行文付与付き)
- 送達証明書
申立費用には、収入印紙代が債務名義1通あたり4,000円、郵券切手代が3,000円~5,000円がかかります。書類の記載方法は、「債権執行に関する申立ての書式一覧表|裁判所」を参考にしてください。
申立て後の流れ
申立て後は、債権差押命令が債務者、第三債務者へ郵送されます。差押命令が送達されると、第三債務者から直接弁済を受けることができますが、弁済方法については第三債務者と話し合いましょう。
財産の差押えを成功させるためには
差押えは裁判所を介して強制的に債権回収をするための方法である一方、既に財産が処分されていたなど上手くいかないこともあります。そこでより差し押さえを成功させるために必要なことを紹介していきます。
差押えによって債権回収しやすい財産を知る
差押さえを成功させるためには、まずどのような財産が差押えしやすいのかを知るべきです。
法人の場合
法人同士で債権回収をする場合は、以下の財産を差し押さえるといいでしょう。優先的に弁済を受けることができるからです。
- 債権者が自身で債務者へ納入した商品
- 債務者から仕入れた商品を転売することで発生した売掛金債権
個人の場合
また、個人の債務者へ差し押さえをする場合は、給料債権、預金債権が差し押さえしやすいと言われています。給料債権であれば、勤務先がわかっていれば差し押さえすることができ、預金債権であれば銀行名と支店名がわかっていれば差し押さえすることができるからです。
財産開示請求を申し立てる
差し押さえを成功させるためには、債務者がどのような財産を所有しているのか事前に知っているべきでしょう。そのためには債務者の財産調査をしなければなりませんが、専門家でない限り個人で調査をするのは現実的ではありません。
そこで財産開示請求を申し立てることをオススメします。裁判所を介して債務者が所有している財産を開示してもらうことができるからです。財産開示手続きの方法について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
【参照】
▶「財産開示手続きを介して確実に債権回収するために必要な知識」
▶「裁判所|財産開示手続」
仮差押えによって財産の処分を禁止する
差し押さえをする財産が、差し押さえの手続きをする前に債務者から処分されないために、仮差押えをしましょう。仮差押えをすることで、債務者が財産を処分することができなくなるからです。仮差押えは、対象とする財産の所在地を管轄する裁判所にて申請をします。
申請には、債務者の財産が記載された申請書や仮差し押さえの必要性を示した文書が必要です。また、申請費用には収入印紙代として2,000円、予納郵券代、資格証明書として1社あたり1,000円、不動産全部事項証明書として1社あたり1,000円、登録免許税として請求額の0.4%が発生します。
予納郵券代金は、以下の通りになります。
<予納郵券代金>
- 債権仮差押え:3,000円
- 不動産仮差押え:2,000円
- 不動産仮処分:1,000円
※裁判所によって金額が若干違います
弁護士へ依頼する
債務者の財産を調べるために、財産開示請求をオススメしましたが、必ずしも債務者から財産の情報を開示されるわけではありません。債務者から所有財産をごまかされることもあるので、より確実に財産調査を行いたいのであれば弁護士に調査の依頼を検討しましょう。
弁護士に依頼すれば財産調査や、裁判所の手続きの代理人を行ってくれるため、手続きの負担が減ります。また、過去の債権回収の実績から依頼主の状況に合った回収方法を提案してくれるので、より確実に債権回収をすることができます。
差押えすれば、諦めていた債権を回収できる可能性があります。まずは差押えで債権回収に成功した事例や、弁護士の選び方を確認しましょう。
まとめ
差し押さえは強制的に債務者から弁済を受けるための法的手続きですが、事前の財産の調査をしっかり行った上で手続きに踏み込むべきです。どのように手続きを行えばいいのか不安な方は、一度、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
財産の差し押えをご検討中の人へ
財産の差し押さえが成功すれば、滞納している債権を回収できるかもしれません。その分、タイミングなどが重要になります。財産の差し押さえ(強制執行)をご検討中の方はできるだけ早く弁護士にご相談ください。弁護士に依頼するメリットは以下の通りです。
- 差し押さえのタイミングの検討
- 差し押えの手続き・書類作成
- 差し押え後の債権回収・手続き
- 債務者との交渉 など
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