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患者が支払ってくれない医療費について、何の対応もせずそのままにしていると、病院経営にまで大きな支障をきたしてしまう恐れもあります。
未収金がある場合は、速やかに回収対応をおこなうべきでしょう。
ただし未収金の回収方法としては、任意での支払いを求める手段のほか、裁判所を介した手段などもありますので、状況に応じて対応を判断する必要があるでしょう。
なお、弁護士に依頼することで、回収対応についてアドバイスやサポートをしてもらえますので、スムーズに回収できる自信がないという方は依頼することをおすすめします。
本記事では、病院での未収金を回収する方法や、回収時の注意点などについて解説します。
病院は、診療費や入院代の大部分を健康保険から支払ってもらえますが、患者の自己負担分は患者本人から回収しなければなりません。
まずは治療直後に直接支払ってもらうのが基本ですが、中には持ち合わせがなく滞納状態となってしまうケースもあります。
この場合、患者が任意で支払をしてくれれば良いですが、そのような患者ばかりではありません。
支払い意思の希薄な患者から未収金を回収するには、以下のような方法があります。
病院からの督促には応じなくても、弁護士からの督促には応じる債務者は一定数います。
そのため、弁護士に債権回収を一任すれば、任意回収の可能性は高まるといえるかもしれません。
また、弁護士に債権回収を依頼すれば、煩雑な回収対応を一任できますので、病院側が未収金回収に割く労力や時間の負担も軽減されるというメリットがあります。
なお、弁護士に債権回収を依頼すれば当然費用がかかります。
この点は回収額・回収可能性を加味して費用倒れとなることがないよう、依頼先の弁護士とよく相談しましょう。
「支払督促」は裁判所を通じて債務者に任意の支払いを督促する手続きです。
この手続きでは、裁判所から支払督促書面が債務者宛に発送されます。
通常の裁判の場合、請求をおこなうためには証拠を添付する必要がありますが、支払督促の場合は不要であり、請求を基礎づける事実関係が最低限記載されていれば手続きを進められます。
債務者が支払督促を受け取って2週間以内に異議申し立てをしない場合は、支払督促に対して仮執行宣言を付すことを申し立てることが可能となります。
そして、当該仮執行宣言付与の申立てから、更に2週間以内に債務者が異議を述べなければ請求内容が確定します。
請求内容が確定した支払督促は、債務名義として強制執行が可能となります。
このように、支払督促は証拠の添付がいらず、債務者が何も対応しなければ強制執行まで迅速に進むことができるという大きなメリットがあります。
しかし、支払督促にも一定のデメリットがあります。
支払督促について債務者は理由の如何を問わず異議を述べられます。
異議を申し立てれば支払督促は効力を失い、通常訴訟に移行します。
通常訴訟となった場合、病院側はそれ相応の主張・立証を求められますので手続きが重くなります。
また、この場合、管轄裁判所は債務者の住所地となりますので、債務者が遠方にいる場合、遠方の裁判所での訴訟手続を強いられることになります。
債務者が異議を述べる可能性があるならば、最初から訴訟提起してしまったほうが効率的と言えます。
「支払督促では異議を述べられそうであるが、通常訴訟まではやりたくない」という場合は、少額訴訟を選択するという方法もなくはありません。
少額訴訟は、60万円以下の金銭債権を請求する場合に利用できる訴訟です。
通常訴訟は複数回期日を重ねる重厚な手続きですが、少額訴訟は原則1回の期日で判決まで終了する簡易・迅速な手続きです。
そのため、少額の債権について即時処理したい場合、少額訴訟を選択するメリットは相応にあります。
もっとも、少額訴訟を進めるには債務者が少額訴訟でおこなうことに同意する必要があり、同意しなければ通常訴訟に移行します。
また少額訴訟で納得いかない判断を受けたとしても、不服申立ては同一審内で1回限りであり、通常訴訟のように上級裁判所に控訴することはできません。
未収金の回収に関して病院側が注意すべきことは、以下の3つのポイントです。
病院が自ら未収金を回収する場合、連絡や取り立ての方法について一定の配慮は必要でしょう。
仮に、相手が診療費や入院代を払ってくれないという理由があったとしても、「債務者に対して何を言っても良い」「何をしても良い」というわけでないのは当然です。
たとえば、毎日しつこく電話をかけ続けたり、相手に連絡なく自宅に押しかけるなどの回収方法は、常識を欠くものとして病院のレピュテーションを落とす可能性もあります。
このような不相当な回収を繰り返し、「病院から非常識な対応を受けた」などのクレームがインターネットの口コミで記載された場合は、事業そのものに悪影響となる可能性があります。
また、「病院から不当な扱いを受けた」と逆恨みした患者が、クレーマーとなり病院に害悪をなす可能性も否定できません。
こうなった場合、治療費等の未払い以外のトラブルにも発展しかねません。
したがって、病院が独自に債権回収をおこなう場合は、一定の節度を持って常識的な範囲でこれをおこなうべきであり、それで回収できないのであれば弁護士への依頼を検討するべきでしょう。
病院の医師は医師法19条に基づき「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」という応召義務があります。
そして患者に治療費等の未払いがあることは、直ちにこの「正当な事由」には当たらないと考えられています。
もちろん、患者の未納が常態化しており、患者にそもそも治療費等の支払意思が認め難いような特殊なケースであれば「正当な事由」を認める余地があるかもしれませんが、過去に1~2回未納がある程度では「正当な事由」は認め難いのが通常でしょう。
したがって、病院側としては、未納リスクがある患者でも治療を拒むことができず、結果、未払いのものが積み重なってしまうということはあり得ます。
治療費等が未払いの患者については回収を放置せず、早めに適切な回収手段を講じたほうが良いかもしれません。
診療報酬債権には一定の消滅時効期間があります。
2020年3月31日までに発生した医療費の消滅時効期間が3年、同年4月1日以降に発生した医療費の消滅時効期間は5年です。
そのため、未払いになったまま長期間放置していれば、権利が消滅してしまって請求できないということになりかねません。
なお、時効完成が近い権利については、時効の停止や中断措置を講じることで対応する必要があります。
詳細は弁護士に相談してください。
債権回収にあたっては、特に以下の点について気を付けるべきでしょう。
債権回収をおこなううえで、患者の情報は必須です。
これがなければ回収自体が困難です。
医療従事者として当然過ぎることではありますが、患者の情報はきちんと管理しましょう。
患者は一般消費者であり、一般消費者からの回収は基本的に困難な場合が多いです。
そのため病院が独自回収に強くこだわると、回収できないばかりか、患者側とトラブルとなる可能性も低くありません。
独自で回収することが難しいと感じた場合、早めに弁護士に対応を委ねることを検討しましょう。
病院の診療費や入院代は、その場で直接回収するのが基本です。
万が一その場で回収ができず、後日回収することも困難となってしまった場合、費用対効果を意識しつつ、弁護士への依頼も積極的に検討してみてください。
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