業務委託契約を結んで行われる取引のなかには、「支払期日を過ぎても報酬が支払われない」というケースなどもあります。そのような場合、債務者である相手方に対して、未払い分の回収対応を行うべきでしょう。
ただし回収対応にあたっては、状況に応じて回収方法を判断する必要がある上、時効期間などについても注意しなければなりません。スムーズに対応を済ませるためにも、債権回収について知識をつけておきましょう。
この記事では、業務委託の報酬に関する回収方法や回収期限など、未払い時の対応について解説します。
業務委託の報酬が未払いの場合の回収方法
未払い分の報酬を回収する方法としては、債務者に対して直接回収を行う任意的手段のほか、裁判所を介して回収を行う法的手段などがあります。
債務者の状況などによって選択すべき方法は異なり、任意的手段にて回収が見込めない場合は、法的手段へ移行することになります。ここでは業務委託における未払い分の報酬について、回収方法を解説します。
任意的手段による回収
任意的手段による回収としては、主に以下のものがあります。
- 電話・メールによる催促
- 内容証明郵便による通知
電話・メールによる催促
電話やメールなどにて、債務者に対して債務の支払いを催促する方法です。
最もコストのかからない回収方法であり、「相手方が支払い期日を勘違いしていた」という場合など、単純なミスによって未払いが生じているケースであれば解決が見込めます。
内容証明郵便による通知
債務の支払いについて記載した催告書などの書類を作成し、内容証明郵便で通知する方法です。
内容証明郵便とは、提出書類に関する情報を郵便局が証明するサービスで、作成時は以下の条件を満たしている必要があります。
- 文字数(縦書きの場合)…1行20字以内・1枚26行以内
- 文字数(横書きの場合)…1行20字以内・1枚26行以内、1行13字以内・1枚40行以内、1行26字以内・1枚20行以内
- 用紙…3通ずつ作成(提出用・郵便局保管用・自社用)
- 印鑑…実印以外でも可。なお書類が複数枚に及ぶ場合は、綴目に契印が必要
催告書の作成形式としては以下の通りです。
法的手段による回収
法的手段による回収としては、以下のものがあります。
- 民事調停
- 支払督促
- 訴訟
- 強制執行(差押え)
なお法的手段については、裁判所より請求が認められることで、権利法律関係を確定する債務名義という公的文書を得ることができます。債務名義があることで、債務者が支払いに応じない場合などは強制執行(差押え)に移ることが可能となります。
民事調停
裁判官や調停委員などの仲介のもと、裁判所にて債務者と協議を行う方法です。
民事調停にて取得できる債務名義として調停調書があります。調停調書には調停の合意内容について記載されており、調停成立後に裁判所にて作成されます。相手方が調停調書の記載内容について履行しない場合は、強制執行へ移行できます。
民事調停では、裁判所の調停員を交えて協議・話し合いが行われる上、手続きは非公開で進められるため、「双方の意見を自由に述べることができる」という点が特徴的です。ただし、債務者には調停の参加・合意義務がないため、話し合いに応じない意思がはっきりしている場合などは、別の手段を選択するべきでしょう。
支払督促
簡易裁判所に対し、支払督促の申立てを行う方法です。
申立て後、裁判所にて債務の支払いについて記載した督促状が作成され、債務者に対して通知が行われます。通知してから一定期間を経過しても異議申立てがない場合、督促状に記載された権利義務などについて認められ、強制執行へ移行できます。
支払督促では、出廷や証拠提出などの裁判手続きを行う必要がなく、書類審査によって手続きが進められるため、「ほかの法的手段に比べて時間・労力がかからない」という点が特徴的です。ただし、通知後に相手方から異議申立てが行われた場合は、訴訟へと移行します。
訴訟
債務者に対し訴訟提起して、権利関係について裁判所で確定してもらう方法です。
提起後、請求理由について裁判所にて認められることで、判決にて「債権回収にかかる権利を有している」などの判断が示されます。訴訟では、確定判決が出ることで強制執行へ移行できます。
訴訟では、証拠提出や出廷などの裁判手続きを行う必要があります。法的手段の中でも手続きが複雑であるため、特に「初めて訴訟対応する」という場合などは、弁護士にサポートを任せた方が良いでしょう。
強制執行(差押え)
債務者の保有財産について、差押えを行って強制的に回収する方法です。実施にあたっては債務名義が必要となります。
強制執行は「ほかの手段では回収が見込めない」など、スムーズな回収が難しい場合に実施するのが通常です。ただし、相手方の財産状況によって回収内容は大きく異なるため、場合によっては理想通りの結果とならない可能性もあります。
業務委託の報酬が未払いの場合の回収期限
債権には時効があり、債権回収にあたっては時効成立前に対応を済ませる必要があります。
ここでは業務委託における未払い分の報酬について、回収期限を解説します。
時効期間
時効期間は債権の種類によって異なります。
例として、一般的な金銭債権であれば10年間、商事取引における債権であれば5年間、また以下のような特別な債権については、さらに短期の時効が設定されています。
中断方法
時効については、以下の対応が行われることで中断することができます。
ここでは、時効の中断方法を解説します。
- 請求
- 差押え(仮差押え・仮処分)
- 債務者による債務承認
請求
請求には、「裁判上の請求」と「裁判外の請求」の2つがあります。
裁判上の請求としては、「業務委託の報酬が未払いの場合の回収方法」にて解説した、民事調停・支払督促・訴訟などがあります。これらの手続きについて裁判所より請求が認められ、債務名義を得ることができた場合、債務名義を取得してから10年間は消滅しません。
また裁判外の請求としては、「業務委託の報酬が未払いの場合の回収方法」にて解説した、催告書の作成・通知があります。この手続きを行った場合、時効完成を6ヶ月延長できます。時効成立が間近に迫っている場合などは有効でしょう。
差押え(仮差押え・仮処分)
「業務委託の報酬が未払いの場合の回収方法」にて解説した差押え(強制執行)や、仮差押え・仮処分などによっても時効を中断できます。
仮差押え・仮処分とは「差押えの前段階にあたる債権の保全行為」を指します。なお、差押えを行うには債務名義が必要ですが、仮差押え・仮処分では不要です。
これらの手続きについて申立てを行い、裁判所から許可された場合、裁判所が指定する期間だけ時効を延長できます。
債務者による債務承認
債務承認とは債務があることを認める行為を指し、主に以下の行為が該当します。
- 同意…債務承諾書や弁済契約書など、債務の支払いに関する書類作成に応じること
- 一部弁済…債務のうちの一部を返済すること
- 支払猶予願…支払金額や支払期日など、支払いに関する猶予を申し入れること
債務者によって債務承認が行われた場合、これまでの時効経過はリセットされ、はじめから時効を数え直します。なお債務承認は、すでに時効期間を過ぎている場合でも適用対象となります。
時効期間を過ぎている場合
すでに時効期間を過ぎている場合でも、なかには回収対応が行えるケースもあります。
時効が成立するためには、債務者によって、時効の成立を主張する時効の援用が行われなければなりません。
したがって時効期間を過ぎていても、債務者が時効の援用を行う前に債務承認を行った場合は、以後、援用することはできなくなるため、回収可能性は消滅しません。
業務委託の報酬が未払いの場合は弁護士に相談
未払い分の回収を行う際は、どの方法で回収するかという点がポイントとなります。
対応内容によっては望み通りの結果にならない可能性もあるため、特に「これまで債権回収を行ったことがない」という場合は、債権回収について実績のある弁護士にサポートを依頼することをおすすめします。
弁護士であれば、今後の対応について状況ごとに応じたアドバイスが望めます。さらに弁護士名義での内容証明郵便の通知や交渉代理、裁判書類の準備や出廷代理など、回収対応のサポートなども依頼でき、自力で行うよりもスムーズな問題解決が見込めます。
なお注意点として、弁護士に依頼する際は弁護士費用が発生します。
回収額によっては費用倒れになる可能性もあるため、依頼にあたっては費用面について弁護士と十分相談しておく必要があるでしょう。事務所によっては無料相談を行っているところもあり、積極的に活用するのも有効です。
まとめ
業務委託による報酬が未払いの場合、内容証明郵便などの任意的手段による回収や、民事調停などの法的手段による回収の中から、状況に応じて対応方法を選択する必要があります。
なお対応時は、時効期間にも注意しなければならず、時効が迫っている場合などは時効の中断を行うことで時効を延長できます。
また債権回収にあたっては、「どの回収方法を選択するか」という点がポイントの一つとしてあり、対応内容によっては、理想通りの回収が行えない可能性もあります。自力でスムーズに対応を進められる自信がない場合は、債権回収に実績のある弁護士にサポートを依頼することをおすすめします。
債権回収に注力している弁護士であれば、回収対応についてのアドバイスや各手続きについてのサポートなどが受けられるため、スムーズな回収が望めます。特に、自力で回収対応を進める自信がない場合などは依頼することをおすすめします。

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