元請業者が下請工事代金を支払ってくれない場合、下請業者は、従業員に給料を支払えなくなったり、資金繰りが悪化して倒産のリスクが生じたりする可能性が生じます。
工事代金は直ちに支払ってほしい、と思うのは当然です。
ただし、下請けの場合、元請けから仕事をもらっている立場であるため、元請けの方が立場的に強いケースも多々あります。
このようなケースでは、催促しても応じてくれず、支払いを先延ばしにされるようなことがあるかもしれません。
確実に債権回収をするためには、債権回収に注力する弁護士に依頼することが重要です。
弁護士であれば、実務経験を活かして回収に向けた戦略を立ててくれるでしょう。
なお、債権回収の方法はさまざまあります。
回収方法を誤ると余計な時間や手間がかかったり、無用なトラブルに発展したりしてしまうかもしれません。
債権回収に関する知識をあらかじめ押さえておくことで、スムーズかつ効果的な債権回収に役立つでしょう。
この記事では、工事代金が未払いの場合の対応や回収方法について解説します。
相手が工事代金を支払ってくれずに悩んでいる場合は参考にしてください。
工事代金未払いにお困りのあなたへ
元請業者が下請工事代金を支払ってくれず、従業員への給料未払いや倒産のリスクが生じることに不安を感じていませんか?
下請けの場合は催促しても応じてくれず、支払いを先延ばしにされるケースも多々あります。
自社だけでは困難な債権を回収したい方は、弁護士に依頼・相談しておくと安心です。
- 適切な回収方法についてのアドバイスを得られる
- 依頼すると、相手方に対してプレッシャーを与えられる
- 依頼すると、法律知識を用いて回収に向けた戦略を立ててくれる
- 依頼すると、訴訟になった場合に手続きを一任できる
ベンナビ債権回収では、債権回収を得意とする弁護士をあなたのお住まいの地域から探すことができます。無料相談・電話相談などに対応している弁護士も多いので、まずはお気軽にご相談ください。
工事代金未払いの場合に取るべき対応
工事代金が支払われない場合、取るべき対応としては以下のとおりです。
未払いになっている理由を確認する
まずは、なぜ未払いが発生しているのか事情を確認しましょう。
相手に直接確認するのも必要ですが、相手の言い分をそのまま信じることができない場合もあります。
たとえば、元請けが、資金繰りの悪化などによりお金がないことを隠し、難癖をつけて時間稼ぎをしている、ということもあり得ます。
相手の言い分だけを信じて判断せず、正確な理由を調査しましょう。
工事代金の未払いが発生する原因としては、以下のようなものが考えられます。
- 経営が行き詰まっていて支払いをする余裕がない
- 発注者(施主)と元請け業者との間で請負代金の未払いが発生している
- 工事やリフォームなどの仕上がりにクレームがあって支払いを拒否している
- 追加工事の金額についてトラブルになっていて支払いを拒否している など
支払いがないまま放置していると、いつまでも支払われない可能性があります。
未払いに気付いた時点で速やかに動くことが大切でしょう。
未払いになっている理由を確認することで、今後の回収方針も立てやすくなるでしょう。
工事代金が支払われるまで目的物は渡さない
代金の支払いを担保するため、留置権を行使することが考えられます。
留置権とは、相手から代金の支払があるまで相手から預かっている物の引渡しを拒むことができるという権利です。
会社間の取引では、「商事留置権」(商法第521条)が成立する可能性があります。
留置権の検討をせず安易に目的物を引き渡すことがないようにしましょう。
立替払い制度を利用する(元請会社が特定建設業者の場合)
工事代金を受け取れず、従業員に給料を支払えなくなっている場合、元請業者が特定建設業者であれば、立替払い制度(建設業法第41条2項)を根拠として賃金の立替払いを求めることが考えられます。
なお、特定建設業者とは、発注者から直接請け負った1件の工事代金について4500万円(建築工事業の場合は7000万円)以上となる下請契約を締結できるように許可を得た業者をいいます(建設業の許可とは|国土交通省)。
工事代金の未払い金を回収する方法
相手が支払ってくれるのを待つだけでは、いつまでも工事代金を受け取れない恐れがあります。
以下の方法で、速やかに回収に動きましょう。
電話や訪問などで催促する
まずは、相手方の担当者などに連絡を取って支払いを催促しましょう。
単なる事務手続きのミスや契約内容について認識違いが起きていただけであれば、改めて支払日を伝えるだけですぐに回収できるでしょう。
一方、資金難などの理由で支払いが遅れているようであれば、返済計画について改めて協議をすべき場合もあるでしょう。
現時点で支払えるだけ支払ってもらい、残りは分割払いで回収するなどの対応も検討せざるを得ないかもしれません。
保証人をつけている場合には、保証人に対する責任追及も検討します。
内容証明郵便を送る
内容証明郵便とは、「いつ・誰から誰に対して・どのような内容の書類を送ったのか」を日本郵便が証明してくれるサービスです。
内容証明郵便を利用して請求することのメリットは以下のとおりです。
- 郵便局が文書を保証してくれるため、「書類は受け取っていない」などの反論を防ぐことができる
- 「このまま支払いを無視すると法的手段を取られるのでは」というプレッシャーを与えることができる
なお、内容証明郵便を送付する際の注意点として、以下の点を守って作成しましょう。
記載内容
記載内容はケースごとに異なるものの、以下の事項は記載することになるでしょう。
- タイトル(「通知書」「請求書」など)
- 日付
- 通知内容
- 相手方の社名・代表取締役名・住所
- こちらの社名・代表取締役名・住所
文字数・行数
縦書きか横書きかによって、それぞれ文字数や行数に制限があります。
- 縦書きの場合:1行20字以内・1枚26行以内
- 横書きの場合:1行20字以内・1枚26行以内、1行13字以内、・1枚40行以内、1行26字以内・1枚20行以内のいずれか
※句読点や括弧などは「1字」として扱います。
用紙
用紙の種類やサイズなどは自由です。
なお、相手用・自分保管用・郵便局保管用の3通作成する必要があります。
印鑑
実印でもシャチハタでも使用可能です。
なお、書類が2枚以上になる場合は、綴目に契印をする必要があります。
作成例
通知書(請求書)
〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇-〇
〇〇株式会社
代表取締役 〇〇 〇〇殿
令和〇年〇月〇日
東京都〇区〇丁目〇-〇
株式会社アシロ建設
代表取締役 アシロ 太郎 ㊞
当社は、貴社からの注文を受け、〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇-〇の土地における〇〇ビル・マンションの建築工事を受注し、令和〇年〇月〇日に工事が完成致しました。
本件契約では、代金〇〇万円をお支払い頂くことになっておりましたが、令和〇年〇月〇日現在も残金〇〇万円のお支払いを頂いておりません。
つきましては、残金〇〇万円を、本書到達日から〇〇日以内に下記口座へお振込み願います。
なお、上記期限までにお支払い頂けない場合、法的手続きに移行させて頂きますことを念のため申し添えます。
(振込口座)
銀行名:〇〇銀行
支店名:〇〇支店
預金種別:普通
口座番号:〇〇〇〇
口座名義:〇〇 〇〇
以上
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支払督促をおこなう
支払督促とは、裁判所を介して督促状を送ってもらう手続きです。
支払督促申立書などの必要書類を作成して簡易裁判所へ申し立てをおこなって、裁判所から支払督促を発付してもらいます。
メリット
支払督促は、訴訟などの法的手段と比べると手続きが比較的簡易という点がメリットです。
基本的には申立書類を提出するだけですので、手間はさほどかからないでしょう。
さらに、手数料が安く、訴訟の半額で済むという点もメリットです。
手数料は請求額に応じて高額になるため、未払い金が多額なほど節約効果は高くなります。
たとえば、3,000万円の未払い金を請求する場合、訴訟を起こす際は11万円かかりますが、支払督促では5万5,000円しかかかりません(申立手数料の額|裁判所)。
また、支払督促に関する申立てについて相手会社が異議を申し立てなければ、仮執行宣言を付することができます。
仮執行宣言が付されれば、相手が支払いに応じなかった場合でも強制執行を申し立てられるようになります。
デメリット
支払督促の場合、相手から異議を申立てられると、通常の訴訟手続に移行するという点がデメリットです。
相手が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議を申し立てると訴訟へ移行するため、かえって手間と費用が余計にかかってしまう場合もあります。
訴訟を提起する
訴訟では、裁判所において双方が主張及び証拠を提出し、最終的には裁判官が判決を下します。
もっとも、判決前に裁判官から和解案を提示され、「和解」という形で決着がつく場合も多々あります。
訴訟を提起するには、訴状などの必要書類を作成し、管轄する裁判所へ提出する必要があります。
なお、原則として訴額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超えれば地方裁判所が管轄です。
メリット
訴訟手続きでは、どのようなケースであれ決着がつくという点がメリットといえるでしょう。
請求を裏付ける証拠が揃っていれば、請求認容判決を勝ち取ることができます。
そして、請求認容判決を獲得できれば、仮に相手が支払いに応じなかった場合でも、強制執行を申し立てるための手続きに移行することが可能です。
デメリット
訴訟手続きの場合、決着まで時間がかかるという点がデメリットです。
訴訟手続きの開始早々に和解が成立すれば1~2か月程度で決着がつくこともあるかもしれませんが、基本的には半年~1年程度はかかるでしょう。
強制執行(差し押さえ)をおこなう
強制執行とは、相手が債務を履行しない場合、裁判所を介して差押等の手続をおこなうことにより、債権を回収する手段です。
強制執行を申し立てるには、「債務名義」が必要です。
具体的には、確定判決、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促、強制執行認諾文言付公正証書(執行証書)、確定判決と同一の効力を有するもの(裁判所での和解調書など)が債務名義となります。
強制執行の方法としては、債権執行(預金の差押えなど)、不動産の競売、動産執行などがあります。
預金を差し押さえた場合、相手の預金先の金融機関から直接支払いを受けることが可能になります。
不動産の競売の場合には、不動産を売却しその代金から債権を回収できます。
動産執行の場合には、相手が所有する動産を売却しその代金から債権回収をおこないます。
強制執行は、タイミングなどによって結果は大きく変わります。
強制執行が失敗に終わらないためにも、事前に相手の財産状況を調査したうえで、タイミングを見極める必要があるでしょう。
工事代金の請求期間には時効がある
工事代金を請求できる期間には時効(消滅時効)がありますので注意が必要です。
ここでは、時効期間や時効の進行を止める方法などを解説します。
時効期間
一般に、債権は以下の期間を経過すると、時効により消滅します。
- 権利を行使できることを知った時点(主観的起算点)から5年間
- 権利を行使できる時点(客観的起算点)から10年間
なお、工事代金に関して、2020年4月以前は、基本的に工事終了時から3年で時効完成していましたが、2020年4月より改正民法が施行されたことで、上記のとおり変更されています(民法第166条1項)。
時効の起算点
工事代金の場合、請負契約書を交わして支払期限を定めている場合がほとんどでしょうから、基本的には、「支払期限から5年が経つと時効が完成する」と考えてよいでしょう。
たとえば、2021年1月1日の契約で、支払期限が2021年12月1日の場合、支払期限日から時効を数え始めて、時効成立日は2026年12月1日です。
※時効期間の計算にあたっては、初日不算入(民法第140条)で計算します。
時効の進行を止める方法
時効については以下のような手段で更新又は完成猶予することもできます。
裁判上の請求等
裁判上の請求等(訴訟・支払督促・調停など)をおこなうと、その事由が終了するまで(訴訟手続きが終了するまで等)時効の完成は猶予され(民法第147条第1項)、請求が認められた場合には、時効期間が10年更新されます(民法第169条第1項)。
催告
裁判所を介さずに内容証明郵便などで請求した場合には、請求したときから6か月間、時効の完成を猶予することができます。
仮差押え等
仮差押えとは、訴訟前に相手の財産を差し押さえ、財産の処分を禁止する手続です。
仮差押え・仮処分を行った場合、その事由が終了したときから6か月間、時効の完成を猶予することができます。
債務承認
債務の承認とは、債務者が債務(未払金)の存在を認める行為のことです。
以下のような行為があった場合、これまでの時効進行がリセットされ再スタートします。
- 工事代金を一部支払った
- 工事代金の支払いを約束する書類作成に応じた
- 工事代金の減額・支払期限の延長などを願い出た など
工事代金未払いに関する相談窓口
工事代金の未払い問題については、以下の窓口に相談できます。
自社だけでは回収が難しい場合には相談しましょう。
建設工事紛争審査会
建設工事紛争審査会とは、建設工事の請負契約に関する紛争の解決をサポートしてくれる機関です(建設工事紛争審査会|国土交通省)。
各都道府県や国土交通省などに設置されています。
建設工事の請負契約に関する紛争は、専門的・技術的な内容を多く含み、解決が容易でない場合が多いです。
建設工事紛争審査会では、あっせん・調停・仲裁により、このような問題の簡易かつ迅速な解決を図るために設けられています。
行政庁
相手に建設業法違反がある場合、国土交通大臣や都道府県知事などに通報することも考えられます。
通報を契機として、立入検査などがおこなわれる可能性があります。
ただし、行政庁に通報したからといって、何かしらの対応が取られるか否かはわかりません。
あくまでケースバイケースでしょう。
弁護士
弁護士には、債権回収について法律相談できるほか、回収対応を依頼することも可能です。
法律知識を用いて回収に向けた戦略を立ててくれますので、自社だけでは回収困難な案件でも解決できる可能性があります。
もし自社の担当者から督促しても支払われない場合には、弁護士に依頼して、まずは内容証明郵便等を利用して支払いを求めてもらうのがよいでしょう。
それでも支払われない場合には、訴訟等も含め、依頼した弁護士に相談するとよいでしょう。
工事代金の未払い金回収を弁護士に依頼するメリット
弁護士に回収対応を依頼した場合、以下のようなメリットが望めます。
適切な回収方法を判断してくれる
内容証明郵便を送るだけで回収できることもあれば、強制執行を行ってようやく回収できることもあります。
債権回収の知識がないと、余計な時間と手間がかかる場合もあるでしょう。
弁護士であれば、相手の対応状況などから、どの手段であれば回収できそうか判断してくれます。
とくに、相手会社が倒産の危機にあるような事案ではスピード対応が求められますので、弁護士に依頼するメリットは大きいでしょう。
面倒な回収手続きを一任できる
催促の連絡や交渉・書面の作成・裁判所での対応など、本業と平行して債権回収をおこなうのは大変です。
弁護士であれば、債権回収の対応を依頼することが可能です。
時間的負担・精神的負担が解消されますし、スムーズな債権回収対応が望めます。
依頼後は、基本的には全ての対応を弁護士にまかせることができるでしょうから、本来の業務にも集中できるでしょう。
相手方に対してプレッシャーを与えられる
お互いの関係性や立場などによっては、相手が「この程度は遅れても大丈夫だろう」と考えて、不当な引き延ばしがおこなわれることもあります。
このようなケースでは、自社から催促しただけだと真摯な対応をしてもらえないかもしれません。
弁護士に回収対応を依頼すれば、相手に対して債権回収に向けての強い意思を示すことができます。
内容証明郵便で催促するとしても、自社名義の場合と弁護士名義の場合では、相手に与えるプレッシャーは違ってくるでしょう。
これにより、相手が態度を変えて支払いに応じてくれることも期待できます。
工事代金未払いで従業員に給与を支払えない場合の対処法
当然ですが、会社は、従業員に対して給与を支払う義務があります。
しかし、本来支払われるはずの工事代金が支払われず、従業員に給与が支払えない、という場合もあるかもしれません。
このような場合の対処法としては、以下のようなことが考えられます。
- 役員報酬を減額する
- 経営者自身で会社に貸付をおこなう
- 他の取引先と交渉する(買掛金の支払猶予・売掛金の早期入金など)
- ローンを利用する
- 社員に状況説明する(どうしても支払いが遅延する場合)
- (元請業者が特定建設業者の場合)立替払い制度を利用する など
まとめ
工事代金が未払いの場合、まず未払いになっている理由を確認してから今後の対応方針を決めましょう。
電話や書面などで直接催促しても代金回収が難しければ、支払督促や訴訟などで回収を図ることになります。
工事代金については、多くの場合「支払期限日から数えて5年」が時効となりますので注意が必要です。
自社だけでは回収が難航しそうな場合は、弁護士などにサポートを依頼するのがおすすめです。
債権回収に注力している弁護士であれば、債権回収に関する知識・経験をもとに、早期回収に向けた戦略を立ててくれます。
さらに回収手続きなども代わって行ってくれますので、依頼後は通常業務に集中できるでしょう。
工事代金未払いにお困りのあなたへ
元請業者が下請工事代金を支払ってくれず、従業員への給料未払いや倒産のリスクが生じることに不安を感じていませんか?
下請けの場合は催促しても応じてくれず、支払いを先延ばしにされるケースも多々あります。
自社だけでは困難な債権を回収したい方は、弁護士に依頼・相談しておくと安心です。
- 適切な回収方法についてのアドバイスを得られる
- 依頼すると、相手方に対してプレッシャーを与えられる
- 依頼すると、法律知識を用いて回収に向けた戦略を立ててくれる
- 依頼すると、訴訟になった場合に手続きを一任できる
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