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与信管理をするにあたって取引先の定量的な情報から判断する方法として財務分析よって会社の経営状況を把握する方法があります。
その指標の一つが売上債権回転率です。
会社の経営状況を正しく把握するためにも、売上債権回転率について正確な知識を身につけましょう。
この記事では、売上債権回転率とはどのような指標なのか、その指標をもとにどんな判断をして、どのような対策をとるべきかなどの詳細をお伝えします。
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売上債権回転率とは、売上債権の回収の期間の長さに関する指標で、売掛債権・売掛金などの回収がスムーズにいっているかの検討材料のために使われます。日数あるいは月数で表示されることもあります。
事業主が商品やサービスの販売をするにあたって、対価の回収方法には、すぐに支払いを受ける場合と、あとから回収する場合があります。あとから回収をする場合、回収の期間が遅ければ遅いほど、手元でお金が自由に使えない状況になり、経営上は不利であるといえます。ある意味で、不安をかかえながらの経営状態になります。
そのため、売上債権が順調に回収できているか、財務諸表上の数字から指数を計算して、売掛債権の回収がうまくいっているかを検討することができるようにした指標が、「売上債権回転率」です。
売上債権回転率は次の計算方法で求めます。
売上債権回転率=売上高÷売上債権(単位:回転)
売上高は、損益計算書の売上の合計を指します。
売上債権は、貸借対照表上の売掛金・受取手形を合計したものを指します。
たとえば、売上高が1,000万円で売上債権が500万円である場合には、
1,000万円÷500万円=2回転
となります。
売上債権回転率は一般的には6回以上であることが望ましいとされます。売上債権回転率が高いほど、売上債権が効率的に回収されると考えられています。
しかし、現金での決済が多いスーパー・コンビニのような小売業と、掛けでの販売が多い製造業での指標が同じでは、債権回収のためのスピードは同じではないはずです。
日本の統計が閲覧できる政府統計のポータルサイトe-Statの中小企業実態基本調査e-Stat 政府統計の総合窓口、中小企業実態基本調査令和2年確報(令和元年決算実績)で公表されている数字をもとに計算すると、
分類 |
売上債権回転率 |
建設業 |
9.23回 |
製造業 |
5.81回 |
情報通信業 |
8.16回 |
小売業 |
16回 |
宿泊業・飲食サービス業 |
36.49回 |
比較は自社の業界の平均、および過去の自社の数値との間で行います。
売上債権回転率が低下していると判断できるときには、会社がすぐに使える現金が少なくなっています。会社が筋肉質ではないことを意味します。
そのため、
といった問題点が発生している可能性があります。
同じように売上債権を回収するまでの期間について判断するための指標として「売上債権回転期間」というものがあります。
これは、売掛債権を回収するまでの期間を計算するもので、
(受取手形+売掛金)÷(売上高÷12)
または、
(売上債権)÷(売上高)×365日
で計算されます。これは何か月で売上債権を回収できるかの計算式です。
「回転率」という名称が類似する経営指標として、
というものがあります。
いずれも、効率性をはかる財務分析指標です。
売上債権回転率が低くなってしまっており、債権回収の上で問題を抱えていると判断できる場合には、次のような対策を検討しましょう。
まず、現在の入金方法のせいでタイムラグがあるのであれば、入金方法のみなおしができないか検討してみましょう。
クレジットカードや電子マネーで決済をしている場合に、実際に受取までに時間がかかる場合には、現金・銀行振込のみの決済にしてもらうことを検討しましょう。
売掛債権の支払い期日を短くしてもらうことを検討しましょう。
たとえば、ある継続的な取引について、末締め末払いとされているような場合に、交渉をして末締め15日払いとしてもらいます。
契約書の記載を確認した上で、支払い期日を早めてもらえれば、回収の速さが大幅に改善します。
商品や原材料の購入について支払いを伸ばしてもらうことを検討することも大切です。
たとえば、原材料を仕入れて加工をして、商品を販売しているとします。
販売することによって回収した資金からまた原材料を仕入れることになるのですが、この売上債権の回収が遅くなっていることは、原材料の仕入れに影響することになります。
また、大口の取引が決まって、その取引についての入金時期が先の期日であることが原因で売上債権回転率が低くなっている場合には、短期的には大口の取引先への納入のための原材料や在庫の仕入れが発生することになります。
そのため、自社が行う仕入れの支払い期日を伸ばしてもらうことを検討しましょう。
ただし、この対処法自体は、買掛金が増えてすぐに手元の現金が減らないだけですので、売上債権回転率自体を直接的に改善するものではありません。
しかし、手元で自由にできる現金が少なくなってくるという問題を解決できる可能性があり、債権回収がスムーズにいくようになった後に売上債権回転率の改善には役に立ちます。
決済の手段として、後日請求する売掛での取引をしている場合、すぐに回収することは基本的にはできません。
しかし、手形で受け取れば手形割引によってすぐに現金に替えることが可能です。
そのため、決済を手形で行い手形割引で現預金にかえましょう。
これによって、売上債権回転率は改善します。
取引先が約束手形の振り出しが可能であれば、約束手形での決済を依頼してみましょう。
昨今は、売掛金を担保に金銭の貸付を行うファクタリング(売掛債権流動化)によって、支払期日前に回収することも可能となっています。
ファクタリング(売掛債権流動化)とは、売掛債権を担保にお金を借りる金融手法をいいます。
例えば、末締め翌々月払いになっている売掛債権があるとして、翌月の段階でファクタリング業者からお金を借りて、翌々月に入金があった段階ですぐにファクタリング業者に返済します。
場合によっては売掛債権の支払いをファクタリング業者にしてもらう場合もあります。
約束手形がない場合でもファクタリングを利用すればすぐに現金化することができるので、売上債権回転率を改善させることが可能です。ただし、ファクタリング取引には、法外な利息を請求する業者も散見されますので、注意が必要です。
売上債権の回収が滞っている場合には売上債権回転率が低下します。
売上債権の回収の滞りが、自社の業務体制にあるのであれば、それを見直しましょう。
未払いになっている売掛債権の請求について、法律・債権回収の知識がない人が担当している場合や、社内の体制がうまくいっていない場合に、請求漏れ・督促漏れ・放置といった事態が発生します。
請求漏れ・督促漏れ・放置をしているような場合でも、貸借対照表上では売上債権のまま残っているので、回収できずに残っています。
そのため、売上債権回転率の計算をする場合の売上債権として残るために、指数の悪化という形で反映されます。
適切に請求をして、回収できなくなっているものについては督促・法的措置によって、売上債権から処理をする必要があります。
自社で体制を見直す、債権回収の経験のある社員を雇用する・弁護士にアウトソーシングするなどの方法を検討しましょう。
以上のような対応方法が難しくなっている場合には、手元の現金が涸渇し黒字倒産とならないように、借金・出資を募るなどして、別の資金調達を検討する必要があります。
これも売上債権回転率を直接向上するものではありません。
企業の与信管理を行うにあたって、売上債権回転率とあわせて与信管理に役立つ指標には次のようなものがあります。
売上高計上利益率は、本業で収益が上がっているかをはかるための指標で、
経常利益÷売上高×100%
で計算されます。
売上高経常利益率が高ければたかいほど、本業で収益をあげることができていると見ることができる数字です。
売上高経常利益率が高くなっている一方で、売上債権回転率が落ちている場合としては、取引の規模が大きくなるとともに債権の回収をきちんとできなくなっていることが考えられます。
この場合には、債権回収を効率よく行うように業務を見直しましょう。
また、取引が拡大して、支払い期が長い取引先が増えてきていると見ることもできます。
この場合には、仕入れの資金をきちんとコントロールできるかに注意をしましょう。
一方で売上高経常利益率が低くなっている状態で、売上債権回転率が落ちている場合には、利益も薄くなっている上で支払いが遅れていて回収できていないということがいえます。
会社の利益が少なくなっている局面で、すぐに使えるお金も少なくなってくることが考えられますので、回収をはやめて設備投資や研究開発を行うことも視野に入ることを検討しなければならないでしょう。
短期的な債務の支払い能力という観点から、会社の安全性を図る指標として、流動比率・当座比率というものがあります。
流動比率は
流動資産÷流動負債×100=流動比率(単位:%)
当座比率は
当座資産÷流動負債×100=当座比率(単位:%)
で計算され、多い方が負債を払い切れる流動資産や当座預金があるといえるので、安全性が高いといえます。
売上債権回転率をはかるための売掛金や受取手形は、流動資産や当座資産の内容としても計算されています。
流動比率・当座比率は、債務の返済能力をはかるための指標です。
売掛金・受取手形として計算されているものが実質的に回収できなくなっているような場合には、流動比率・当座比率もある程度割り引いて考える必要があります。
その意味では売上債権回転率が低下していて、その原因が債権回収に問題があるケースでは、流動比率・当座比率の検討をする際に注意をすべき場合であるといえるでしょう。
自己資本比率は、会社の資産がどれだけ資本で構成されているかを測る指標です。
会社の資金調達の方法として、出資を募る方法と、借金をする方法があります。
借金については当然返さなければならないのですが、これが出資であれば返済しなくても良いわけですから、会社財産として保有しているものが出資によるものであるほうが、会社の財務が健全であるといえます。
自己資本比率が低い状態は、借金が多い状態で、常に借金返済を念頭に入れる必要があるのです。
また、自己資本比率がマイナスになっている状態を、通常は債務超過といい、破産原因にもなっています。
この数字が低い状態で、売上債権回転率が落ちてくると、資金調達の方法が非常に制限されることになりますので、早めに対処をする必要があります。
取引先の財務分析をしている中で、取引先が売上債権回転率が落ちているので、債権回収に懸念があるような場合には、次のような事項を検討しましょう。
契約内容の見直しを行いましょう。
例えば、非常時の債権回収手段として、納入した動産の引き上げをすることがあります。
これを行うためには、売掛債権の返済が滞ったときに引き上げができるように、所有権留保などの条項が契約内容に記載されていなければなりません。
売上債権回転率が落ちているということは、手元の資産を廉価で販売したり、担保に入れたりして資金を確保することが予想されるため、この契約条項は重要であるといえます。
その他にも取引先との契約書の見直しを行い、非常時の債権回収のための措置をスムーズにとれるかをもう一度確認しましょう。
与信額の減少を検討しましょう。
与信管理をしっかりしているならば、その会社との信用取引を行うかどうかの検討をする際に、いくらまでの信用取引を行うかを検討しています。
もし、無制限に認めているのであれば、与信取引をする限度額を設定して、過度な与信取引をしないようにします。
信用取引をする部分について、担保や保証の徴収をすることを検討しましょう。
総合的にみてこれ以上与信ができないような場合や、設定する与信額を超えて取引をするような場合でも、担保や保証を徴収できていれば、最終的な支払いを期待することは可能です。
会社や代表者・役員、関連会社などが保有している不動産に抵当権をつけてもらったり、代表者や役員ら個人に連帯保証人となってもらうなどして、回収を容易にすることを検討しましょう。
支払い期日の管理を適切に行いましょう。
支払い期日にきちんと入金があるかどうかを管理することはもちろん、入金のリマインドの方法や、支払いがなかった場合の以後の対応について、期日を区切って管理をします。
入金のリマインドは書面やメールなどで行うことが一般的です。
支払いがなかった場合の対応については、一般的な対応方法の整備はもちろんとして、支払いまでに、たとえば月に1回正常な支払いに向けての交渉の場を持つなどして、支払いに向けての管理を強める必要があります。
総合的に見て返済がかなり厳しくなっている場合には、保全措置の準備を始めましょう。
保全措置とは、訴訟などを行う際に、相手方が財産を使い込んでしまったり、かくしてしまったりしないようにするためにする措置です。
上述した納入した商品の引き上げのほかにも、先取特権の行使・仮差押えをするなどの必要があります。
どのような財産を持っているか事前に調査しておくことは、スムーズな保全措置のために必要不可欠です。
売上債権回転率の分析を通じて、債権回収などについて法務担当者が知っておいたほうが良い事項についてお伝えしてきました。
財務分析を通じて企業の健全性=債権回収に懸念を生じたときには、実際に返済ができなくなる時点以前に、やるべきことは多数にあります。
債権回収は個別の法律知識が必要である上に、効率よく債権回収するためにはタイミング良くこれらの手続きを使う必要があります。
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