
債権回収における民事調停とは、裁判所が任命した調停委員の仲介の下に、当事者(債権者・債務者)が話し合いことで双方の債権・債務に関する問題を解決するための制度です。
法的手段を用いた債権回収の中でも、民事調停は費用が低額な上、手続きが簡易的であるため着手しやすい債権回収方法でしょう。しかしながら、訴訟と異なり裁判所側が強制的に白黒をつけることができないため、調停が成立しないケースも珍しくありません。
そこで今回の記事では、債権回収において民事調停を用いるメリット・デメリットや、民事調停を利用する方法とその手順についてまとめました。
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弁護士に依頼することで、最大限の金額を回収できる可能性があります。債債務者が破産・再生手続きを行う前に、弁護士にご相談ください。。
債権回収において理解すべき民事調停に関する事前知識
まず最初に、債権回収を検討されている方が、民事調停について知っておくべき基礎知識について紹介していきます。
民事調停とは債権回収方法の一つ
冒頭でもお伝えした通り、民事調停は債権者が債権回収をするために調停委員に仲介役になってもらうことで、債務者と未回収分の債権に関する話し合いをするための手続きです。
調停委員とは
調停委員とは、最高裁判所から任命された弁護士の資格や、専門的な知識、法律を扱った経験を持つ民間人のことを指します。
民事調停においては、調停委員は2人が、当事者の間を取り持つことになりますが、調停委員の仕事は調停を成立(双方が和解)するために、各々にアドバイスをすることです。また一般の民事調停では、弁護士が調停委員になることがほとんどでしょう。
支払督促
裁判所を介した債権回収方法には、他に支払督促、少額訴訟、民事訴訟がありますが、民事調停は法的手段による債権回収の一つの方法にしか過ぎません。
裁判所を介した債権回収を検討されている方は、それぞれの方法についても検討する必要がありますが、支払督促とは裁判所を介して債務者へ支払を促すための手続きです。
金銭債権のみを対象に、手続きを通して最終的に強制執行に必要な仮執行宣言付支払督促という債務名義を取得することができます。支払督促については詳しくは以下の記事を参考にしてください。
【参照】
▶「支払督促とは|申立方法と手順や弁護士選びに必要な知識まとめ」
▶「支払い督促を介して仮執行宣言付支払督促を取得する方法」
少額訴訟
少額訴訟とは、金銭債権の回収を対象にした、請求金額が60万円までの訴訟手続きです。通常、1日の審理で終わるため、通常の訴訟と比べて手続きに要する時間が少なく、手続きにかかる費用を安く済ませることができます。
少額訴訟に関して詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
【参考】
▶「少額訴訟の費用相場と少額訴訟費用を安く抑える方法」
▶「少額訴訟を弁護士に依頼するメリットと弁護士費用の相場」
民事訴訟
債権回収を目的とした法的手段の中でも、民事訴訟は最も、手続きに費用と時間を要します。
債権者にとって最もハードルの高い手続きになりますが、他の法的手段と比べて債権回収への確実性は高いため、申立人の資産、債権の状況によっては民事訴訟が適切かもしれません。
債権回収で民事調停を利用するメリット・デメリット
民事調停について理解するために、債権回収における利用するメリット・デメリットを確認していきます。
メリット
民事調停を利用するメリットとしてまずあげられることは、申立費用が安いことと、手続きが簡易的なことでしょう。専門的な知識が必要ないため、弁護士に依頼しなくても申立が受理されます。
また、金銭が絡むため債権に関する話し合いは、当事者が感情的になるため和解に至らない場合が多いです。民事調停では、客観的な視点で意見を言える調停委員が間に入るため、債務者との話し合いがまとまりやすくなります。
そして、一般的な裁判では傍聴席が用意されていますが、民事調停では傍聴ができないため当事者間の問題が表沙汰になることがありません。
デメリット
デメリットとしては、裁判所側の結論への強制力がない点です。調停はあくまで債権者と債務者の双方が納得した上で成立するため、債務者側からの同意が得られない以上は成立しません。債務者が当日、調停に出頭しない場合も同様です。
そのため、双方がある程度、歩みよる要素がなければ調停成立は難しいでしょう。また、申立先は債務者の住所を管轄する裁判所で行われるため、訴訟と異なり公示送達が利用できません。これは債務者の住所が不明な場合、民事調停の申立ができないことを意味します。
債権回収で民事調停を利用することをおすすめする理由
では、民事調停を介して債権回収をするべき理由はどこにあるのでしょうか。実際のところ債権者の状況によるところが大きいですが、民事調停をオススメする理由を述べていきます。
手続き費用を安く抑えられる
裁判の費用を工面する余裕がない、弁護士に債権回収の依頼をする余裕のない方にとって民事調停はうってつけでしょう。「申立方法」にて詳しく記述しますが、民事調停は申立費用が低額なため、資金に余裕のない債権者にとっても着手しやすい債権回収方法です。
手続きがラク
また、先ほども説明した通り、専門的な知識がなくても申立をすることができます。手続きに要する時間も短い上、調停当日は裁判所からの許可がおりれば、知人に代理人を任せることもできるので、手続きに対する負担がとにかく少ないです。
裁判と同等の効力がある
そして、手続きに要する費用や時間的コストがかからない上に、調停が成立すれば、裁判で取得する判決と同等の効果が得られます。
調停が成立した場合、裁判所の書記官から調停調書と呼ばれる債務名義が作成されますが、これは強制執行(裁判所を介して債務者の資産を強制的に差し押さえるための手続き)の申立をする上で必要な文書です(参照:「債務名義の取得」)。
債務者との間柄を壊したくない場合に有効
訴訟は時間を要するため、精神的な負担のかかる手続きですが、債務者にとっても同様でしょう。裁判は公にさらされることもあり、訴訟を受けた側からの心象が悪くなるため、債務者との仲を壊しかねません。
民事調停は、調停委員の仲裁の元、当事者間のみの話し合いで成立するため、債務者との関係性を壊したくない方にとっては最適でしょう。
時効の中断も可能
民事調停を申立が受理された場合、債権(2020年4月以降に発生した債権に関しては、時効は一律5年に変更されました。なお、残業代請求の時効に関しては当面3年となっております。)の消滅時効は中断されますが、調停が無事成立した場合、債権の時効が10年に延長されます。債権の内容によって元々の時効期間は異なりますが、ここで延長される時効期間は債権の内容に寄りません。
参照:「債権回収するために必要な時効の中断方法と知識のまとめ」
民事調停が有効ではない場合もある
度重なる弁済の催促に対して債務者が反抗的な場合、または債務者の居所がつかめない場合、民事調停は債権回収に向かないでしょう。
債務者が強気な姿勢を見せているということは、調停が成立する可能性が低いためであり、また和解に同意する場合でも大幅な債権の免除を要求してくる可能性が高いです。
そして、債務者の住所が不明の場合、そもそも民事調停を申立することができません。このような場合は、訴訟によって債権回収をするべきですがまずは弁護士に相談しましょう。
債権回収における民事調停の利用方法とその手順
最後になりますが民事調停を介して債権回収をするまでの手順を説明していきます。
申立前に準備する申立書の添付書類
まず申立をする前に、申立書に添付する書類を集めなければなりませんが、債権者・債務者双方の登記簿謄本と資格証明書と、証拠書類が必要です。登記簿謄本と資格証明書に関しては、法務局にて取り寄せることができます。
証拠書類に関しては、債務者との間の契約書、領収書、売掛台帳写し、手形などが有力ですが、証拠となるものは捺印、署名が欠けている書類であれ全て提出しましょう。
申立方法
添付書類の用意ができたら、申立書と共に債務者の住所を管轄とする簡易裁判所へ申立を行います。
申立書の記載内容
申立書に関しては申立書に記載された通りに記入するだけで問題ありませんが、不明点がありましたら窓口にて確認してください。
主な記載内容は、「当事者(債権者・債務者)の住所・氏名」、「申立の趣旨(債権者側への要望)」、「紛争の原因(債務不履行になった要因など)」、「署名・押印」、「管轄する裁判所の名称」です。
申立費用
そして申立書に収入印紙を貼った上で、郵券切手と一緒に申請を行いますが、収入印紙の代金は請求金額に応じて高額になります。収入印紙代は以下の表を参考にしてください。
請求金額 |
印紙代 |
100万円以下 |
10万円ごとに+500円 |
100万円超、500万円以下 |
20万円ごとに+500円 |
500万円超、1000万円以下 |
50万円ごとに+1000円 |
1000万円超、10億円以下 |
100万円ごとに+1200円 |
10億円超、50億円以下 |
500万円ごとに+4000円 |
50億円超 |
1000万円ごとに+4000円 |
郵券切手代に関しては、規定が異なるため一概には言えません。都内の裁判所では債務者1名あたり2500円と指定されておりますが、詳しくは申立先の窓口にて確認してください。
第1回調停
申立書が受理されれば、第1回調停期日が決定後に債務者側へ呼び出し状が送達されます。当日は、債権者・債務者の双方が出頭しなければなりませんが、代理人を立てることも可能であり、弁護士以外(家族や友人)に依頼する場合は、裁判所の許可が必要です。
実際の調停では、調停委員が双方の言い分を交互に伺いながら、調停を成立させるために双方から譲歩を引き出すことで妥協点を見つけていきます。
調停を成立させるためには妥協点を見つけること
再三申し上げますが、調停は債務者側の同意が得られなければ成立しません。そのため、ある程度の債権額の免除や弁済期間の延長は覚悟すべきでしょう。こちら側がなるべく損しすぎない程度に、債務者が飲み込みやすい妥協的を見つけることが大切です。
第2回調停へ持ち込む場合
調停の内容や調停委員によって異なりますが、債権者と債務者の双方の言い分を聞くだけで次回の調停に持ち越される場合があります。双方の債権・債務に対する認識の齟齬を埋めながら調停が繰り替えされていくのが調停の流れです。
また、調停が次回まで長引く場合は、双方の納得する次回の調停日時を決めます。
調停成立
調停を行っていく上で妥協点が見つかった場合、調停委員によって妥協案が作成されます。この妥協案を元に調停調書が作成されますが、妥協案は書記官の立会いの元に添削され、添削された妥協案を書記官が書き上げることで調停調書が完成します。
調停調書が完成すれば、民事調停は完了です。
強制執行:調停成立後に債務不履行が生じた場合
調停調書が発行された後に、もし債務者が調書の内容に従わなかった場合、強制執行の申立を行いましょう。強制執行を行うことで、裁判所を介して債務者の資産(不動産、動産、債権)を強制的に差し押さえることができます。
強制執行について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
【参照】
▶「強制執行の一連の流れと差押さえまでの手順の解説」
▶「強制執行で差し押さえするために必要な知識と方法のまとめ」
合意の成立する見込みがないと判断された場合
もし、調停委員が、双方の同意を得ることが難しいと判断した場合、調停は不成立となり手続きは終了してしまいます。
訴訟への移行
この場合、申立による時効中断の効果もなくなってしまいますが、調停終了後、2週間以内であれば民事調停の申立で利用した収入印紙を流用したまま、民事訴訟へ移行することができます。
参照:「債権回収の民事訴訟を起こす上で抑えておきたい知識まとめ」
まとめ
民事調停は、申立費用が低額な上に、手続きが簡易的なため債権者にとってはハードルの低い債権回収方法です。しかしながら、債権者と債務者の関係性や調停の内容次第では調停不成立となるケースも少なくありません。
債権回収をする上で、民事調停を検討されている方にとって今回の記事を役立てていただけたらと思います。また、下記の記事で他の債権回収方法を紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
参照:「債権回収する方法|状況別に合わせた債権回収方法まとめ」
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