強制執行は相手の権利を大きく制限する手続きです。
従って強制執行には複雑なルールがあり、問答無用で相手の財産を取り上げられるものではありません。
また強制執行の方法と対象は債務者が特定しなければならないのです。
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裁判で判決をもらえたからといって、債権者がいきなり債務者の財産を差し押さえることはできません。債権者が債務者の財産の処分を無断で行うことは、犯罪行為にあたります。
債務者の財産を差し押さえるためには、裁判所を介して強制執行という法的な手続きを踏むことが必要です。今回の記事では、債権者の方が、債務者の財産を差し押さえる上での強制執行における基礎知識、手続きを完了させるために必要なことや手順について紹介していきたいと思います。
強制執行は相手の権利を大きく制限する手続きです。
従って強制執行には複雑なルールがあり、問答無用で相手の財産を取り上げられるものではありません。
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まず強制執行を介して、差し押さえをする上で必要な事前知識についてまとめました。
そもそも強制執行とは、法律を介して、つまりは公権力によって債務者の財産を差し押さえる方法です。当然ながら民間の人は、法律の執行人ではないため、法的に債務者から債権(売掛金、貸付金)の存在が証明(債務名義)されても、強制的に債務者の財産を没収することはできません。
強制執行とは、民間の方が債務者から債権を回収するために、公権力が代わって財産を強制的に差し押さえするための制度なのです。
差し押さする財産の種類によって、強制執行の手続きは異なります。債権執行、不動産執行、動産執行の3つに分かれますが、差し押さえる財産がないと、手続き自体が無駄になってしまうため債務者側がどのような財産を保持しているのか確認することが必要です。
各執行手続きにおいて差し押さえられる財産の対象を確認していきましょう。
債権執行は、法人、個人問わずよく用いられる執行手続きになりますが、債権執行とは債務者が所有している債権を差し押さえるための手続きになります。そのため、債権者は債権執行後、債務者に代わり差し押さえた債権の債務者(第三債務者)から弁済を受ける仕組みです。
法人同士の債権執行では、取引先が所有する売掛金債権、貸付金債権を差し押さえることが一般的ですが、個人を対象にする場合、給与債権や預金債権を差し押さえることが一般的でしょう。
給与債権における第三債務者は、給与を支払っている雇い主(会社)のことであり、また預金債権においてはお金を貯金している銀行などが第三債務者に該当します。
行政側は、差し押さえが行われる際、債務者の暮らしを最低限保護する義務があります。そのため給料、給与債権を差し押さえるに当たって、差し押さえ可能な給与は原則1/4までであり、残りの3/4は差し押さえることができません。
養育費を回収する目的においては、給与の差押えをする場合は、1/2まで差し押さえことが可能です。また、公的年金なども生活を保護する目的で支給されているため、差し押さえることができません。
不動産執行とは、文字通り、土地や建物などを差し押さえするための手続きです。債務者の自宅や、自社ビルなどが差し押さえられることが多く、登記された地上権(他人の土地だけど工作物や竹林を所有する権利)なども不動産執行の対象になります。
しかしながら、不動産の多くが既に銀行に抵当にかけられているケースが多い上に、不動産執行は申立費用が高額なため割に合わないケースも少ならからずです。
動産執行とは、私物として債務者が所持しているものが対象になりますが、法人同士の差し押さえであれば債務者法人の社内に保管してある商品の在庫などを差し押さえることが一般的です。
個人を対象とする場合、債務者の自宅にある骨董品、ダイヤ、貴金属、現金(上限66万円)など換金価値のある動産が対象になりますが、小切手や株券など有価証券も動産に含まれます。
実際に、債務者の所在地に訪問して差し押さえを行うため、換金するに値しないものが含まれているケースも多く、動産執行の際に執行委員の経費として裁判所へ納める費用の方が割高なケースは珍しくないでしょう。
また、動産の中でも債務者の必要最低限の暮らしを営むために必要な衣類や家具などは差し押さえることができません。
では実際に強制執行をするためにはどうすればいいのでしょうか。そのためには強制執行の申立をする前に、行わなければならない手続きがあります。申立までに必要な手続きを順追って確認していきましょう。
強制執行を申し立てるために債務名義が欠かせませんが、債務名義とは債務者に対して債権を公的に証明したものです。具体的には、訴訟、支払督促、民事調停などの法的手段によって取得することができます。
訴訟手続きは、一番、時間と費用のかかる手続きになりますが、債務名義を取得する上で一番、確実性の高い手続きでしょう。訴訟では確定判決という債務名義を取得することを目的としていますが、基本的に第一審で確定判決が得られることはあまりありません。
そのため第二審以降に確定判決が取得されることが一般的ですが、第一審においても仮執行宣言付判決という債務名義を取得することが可能なため、そのまま強制執行手続きを申し立てることが可能です。
また、訴訟手続きにおいて裁判所側は双方の和解を勧めてくる場合が多く、話し合った結果、訴訟手続きの最中に和解で解決するケースも珍しくありません。この場合、和解調書が作成されますが、和解調書も強制執行手続きを申し立てるのに必要な債務名義に含まれます。
参照:「債権回収の民事訴訟を起こす上で抑えておきたい知識まとめ」
少額訴訟とは、金銭債権を対象に60万円以下の請求金額にのみ簡易裁判所で申立ができる訴訟手続きです。一般の訴訟手続きと比べ、手続きが簡易的な上に収入印紙代が6000円より高い手数料がかかりません。
また、少額訴訟に勝訴くることで債務名義として少額訴訟判決が取得できます。
参考:「少額訴訟の金額と請求可能な金額|少額訴訟の条件と手続き」
支払督促とは、金銭債権のみを対象に裁判所から債務者へ支払の督促をしてもらうための手続きになりますが、同時に仮執行宣言付支払督促という債務名義を取得することを目的とした手続きです。支払督促について詳しくは以下の記事を参照にしてください。
【参照】
▶「支払い督促を介して仮執行宣言付支払督促を取得する方法」
▶「支払督促とは|費用や流れ、申請書の書き方を解説」
民事調停とは、簡易裁判所にて調停委員の仲裁の元、債権者、債務者の話し合いによって双方の意見をまとめるための手続きです。双方の意見がまとまれば、調停委員によって調停調書が作成されるため、強制執行を申し立てることができます。
費用や時間的コストがかからない手続きになりますが、両者の合意があって初めて成立する手続きのため、合意しなかった場合、債務名義は得られません。
参照:「債権回収における民事調停の有効性と利用方法のまとめ」
もし、債務者が初めから話し合いに応じてくれるのであれば上記で紹介した法的手段を使用する必要はないでしょう。
この場合、交渉によって債務者と今後の弁済に関する取り決めを行いますが、債権者と債務者が双方納得した場合、一般的には弁済に関する契約書を作成します。
この時、契約書により法的効力を持たせるために、公証役場にて公証人に契約書の内容をまとめてもらい公正証書を作成してもらいますが、公正証書自体が債務名義になります。
次に、債務名義の書面に強制執行の効力を持たせるために、債務名義に執行文を付与してもらうことが必要です。少額訴訟判決、仮執行宣言付支払督促においては、元から執行力が付与されているため、この手続きは必要ありません。
公正証書においては、証書を作成した公証人へ執行分付与を作成してもらいますが、その際に、公正証書正本、戸籍謄本、住民票、免許証、印鑑、印鑑証明書が必要です。また執行文の付与の手続きには、1700円の手数料が別途でかかります。
また和解調書、調停証書、(仮執行宣言付)判決に関しては、債務名義を作成した裁判所の裁判書記官へ執行文付与を作成してもらいますが、作成するにたり申立書と債務名義の正本、収入印紙代として300円を納めなければなりません。申立書の作成方法については以下を参考にしてください。
収入 |
||
事件番号 |
平成○○年()第×号 |
|
執行文付与申請書 |
||
債務者 |
住所:○○○ |
|
債務者 |
住所:××× |
|
上記当事者間の御庁事件について、平成○○年○月○日に言渡された判決にもとづき、当該判決に執行文を付与くださるよう申請いたします。 添付書類 1.判決確定証明書 申請人(債権者)住所×××
○○地方裁判所 御中 |
強制執行するにあたり、債務名義の謄本もしくは正本を債務者へ郵送する必要があります。謄本を取得するにあたり公正証書に関しては、公証人に、その他の債務名義に関しては、債務名義を作成した裁判所の裁判書記官へ送達の申請から送達をした証明書を発行しなければなりません。
公正証書に関しては、公正証書の作成時に債権者の前で公証人から債務者へ謄本を手渡しすることで送達が行われたことになり、1650円の費用が別途でかかります。また、判決や訴訟期間中の調書、支払い督促に関しては裁判所から謄本が送達されますが、所在不明で送達できていない場合があるため、送達証明書を別途で郵送することが必要です。
送達証明を申請するにあたり、送達証明申請書と印紙代として150円を納めなければなりません。送達証明申請書の作成方法に関しては、以下のテンプレートを参考にしてください。
収入 |
|||
事件番号 |
平成○○年()第△号 |
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送達証明申請書 |
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当事者の表示 |
債務者 |
住所:○○○ |
|
債務者 |
住所:××× |
||
上記当事者間の御庁事件について、平成○○年○月○日に言渡された判決の正本は、平成○年○月○日被告に送達されたことを証明願います。 平成○年○月○日 申請人(債権者)住所××× ○○地方裁判所 御中 |
では実際に強制執行の申立から差し押さえまでの流れを、各執行手続きに分けて確認していきます。
債権執行をするにあたり、手続きは裁判所で行われます。
裁判所に債権執行の申請にするにあたり債権差押命令申立書と共に、当事者目緑、請求債権目録、差押え債権目録、執行力のある判決の正本(債務名義)、送達証明書を提出するのと同時に、申立手数料として4000円、郵券切手代として3000円納めなければなりません。
請求債権目録とは、債権者が債務者に対して有する債権を並べた書類であり、差し押さえ債権目録とは、差し押さえの対象となる債務者が実際に保持している債権の一覧であります。債権差押命令申立書の作成には以下を参考にしてください。
また、当事者目録と請求債権目録に関しては以下参考にしていただけたらと思います。
当事者目録 |
|
債権者 |
〒○○○-○○○ 住所 |
株式会社○○○ |
|
代表者 アシロ太郎 |
|
債務者 |
〒○○○-○○○ 住所 |
株式会社××× |
|
代表者 asiro史郎 |
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第三債務者 |
〒○○○-○○○ 住所 |
株式会社△△△ |
|
代表者 あしろ三郎 |
|
送達場所 〒○○○-○○○ 住所 |
請求債権目録 ○○裁判所平成○年()第○号事件の執行力のある確定判決正本に表示された、下記債権の合計費用、及び執行費用 記 1.元金 ○○円 2.確定遅延損害金 ○○円 3.上記1の元金に対して平成○年○月○日までに発生した遅延損害金 4.執行費用 内訳 (1)本申立手数料 ○○円 |
差押債権目録に関しては債権の種類によって書式が異なるため、「債権執行に関する申立ての書式一覧表|裁判所」を参考にしてください。
先ほども説明した通り、債務者とは別に差し押さえる債権に対する債務者(第三債務者)が存在しますが、債権者は第三債務者から直接弁済を受けることになります。
債権執行の申立が受理された後は、執行裁判所から債務者と第三債務者へ債権差押命令が発送され、その段階で第三債務者から債務者への弁済は禁止されます。
その後、債権者から第三債務者へ取り立てを行う流れになりますが、弁済額の総額が債権額に満たなかった場合、債権者は残高分を債務者へ請求することが可能です。
まず不動産の強制執行の申立は不動産所在地を管轄する地方裁判所にて行います。
申し立ての際には、不動産強制競売申立書と共に、債務名義の正本、送達証明書、資格証明書、委任状、当事者目録、物件目録を提出しなければなりません。物件目録とは、債権執行における差し押さえ債権目録と同様だと思ってください。
また申立の際、収入印紙代が4000円かかりますが、それとは別途に予納金を納めなければならなく、不動産執行の申立の場合、合計で数十万円の高額な予納金を納めることが必要です。
強制競売申立書の作成方法について上記の表を参考にしていただけたらと思いますが、当事者目録に関しては、債権執行の際の当事者目録から第三債務者の欄を除外した場合を想定してください。また請求債権目録も債権執行の場合と同様です。
物件目録に関しては、土地と住宅を別々に記載する必要があり、それぞれの住所や、地積や面積などを記載する必要があります。
物件目録 (1)所在 ○○県○○市 |
申立が受理された後は、裁判所からの不動産の調査、最低競売価格の算定評価が行われますが、1年の期間を要します。その後、競売期日が指定されるので、落札者が決まり次第、落札価格が債権者へ配当される仕組みです。
しかしながら、不動産には抵当がついている場合もあるため、債務者に対して複数の債権者が存在する場合もあり、それぞれの債権者に配当をうける権利があります。法的な優先順位に従い受け取れる配当金額が変わるため、全額の債権回収できる保証はありません。
動産執行を行うためには、差し押さえる対象の動産が存在する住所を管轄とする地方裁判所に所属している執行官に対して執行の申立てを行わなければなりません。
執行の申立てには、債務名義の正本、執行文の付与が必要ですが、申立書は執行官室にて用意されているため、指定箇所に記載をして印鑑を押せば、後は申立料と執行費用の予納金を納めれば完了です。
予納金の内訳として差し押さえる動産を運びだす際の人件費などが加算されるため、3~5万円の費用が予納金の相場となります。
実際に差し押さえは債務者の自宅にて、債務者の生活に最低限必要な物以外をそのまま差押え行うことが可能です。現金に関してはそのまま直接、受け取ることができますが、現金以外の動産に関しては換金するために競売にかけなければいけません。
また不動産の差押えと同様に、債権者が複数存在する場合、換金されたお金から債権者の債権額に応じて配当金が配当されます。しかし、金属類や骨董品など換金価値の高い動産なら問題ありませんが、換金のための時間や費用に見合わない場合も多いです。
実際に、債務名義を取得した人が、債務者に差し押さえるだけの資産がないため、強制執行の手続きを行っても債権の回収ができケースもよくあります。そこで債務者の差し押さえるものがない場合に備えて、訴訟を起こす前に債権者が行うべき予防策についてまとめました。
予防策の一つとして、債務者の財産を調査することが大切です。例えば不動産執行であれば、不動産がちゃんと登記されているのか、既に不動産が抵当にかけられていないかどうか、登記情報から確認するようにしましょう。
また、対象とする債務者が個人か法人かによって差し押さえに効果的な財産が変わります。一般的に個人の場合、給与債権、預金債権を差し押さえるのが一番効果的でしょう。
差し押さえにおいて大切なことは財産がどこに存在するのかを確認することですが、給与債権であれば債務者の勤務先さえわかっていれば差し押さえることが可能です。
また、預金口座においては銀行と支店名さえわかっていれば、口座番号まで把握していなくても問題ありません。
ちなみに動産執行に関しては、先ほども申しましたが、費用が高額な割に債務者の自宅にどんな資産があるのか把握しづらいため債権回収という観点からは実現性に乏しいでしょう。
法人の場合、まず動産執行であれば、債務者法人の社内にある商品の在庫がメインになりますが、特に債権者が自社で納入した商品に関しては差し押さえしやすいでしょう。
この場合、納入した商品だけでなく、納入した商品を転売することで債務者が取得した売掛金債権を差し押さえることもできます。実際に、差し押さえをする際、すでに財産に抵当がついているなど、他に債権者がいたため、満額の債権回収ができないケースは珍しくありません。
自社で納入した商品により発生した売掛金債権であれば、動産売買先特許権による物上代位のため他の債権者よりも優先的に差し押さえることができるため効果的です(「動産売買先特許権による物上代位」)。
また、債務者が保有する売掛金債権を差し押さえるのであれば、第三債務者、金額、支払時期など売掛金の内容がわかっていると差し押さえがしやすくなります。
債権執行においては、第三債務者がちゃんと弁済してくれるのか確かめることが必要になりますが、そのためには債務者と第三債務者との間の帳簿などが確認できるといいでしょう。
しかしながら、債務者の協力が必要になるため、債務者が非協力的である場合は、弁護士などの専門家へ財産調査を依頼することをオススメします。
仮差押さえによる財産の処分の禁止
また、差押え可能な資産の確認ができても、実際に差し押さえを強制執行する段階で、財産が既に処分されているケースもあります。そのため債務名義を取得する前の段階で、財産の処分を禁止するための仮差押さえを債務者へ行いましょう。
仮差押さえの手続きが完了すれば、債務者は財産を隠したり、処分することができません。
仮差押さえは、債務名義を取得する際に利用する裁判所、または仮差押さえの対象物の所在地を管轄する裁判所にて仮差押さえの申請を行うところから始まります。
申請書には、債務者の財産、被保全債権(差し押さえる債務者の債権)を記載しますが、被保全債権が実際に存在することと保全(仮差押さえ)をする必要性を簡単に証明するための文書を添付して申請しなければなりません。
またその際に、裁判所へ納める手数料として印紙代の2000円がかかります。申請が完了次第、裁判所と債権者の間で、保全の必要性、保証金に関する面接が行われ、保証金が決定次第、債権者は裁判所へ保証金を納めなければなりません。
この保証金は、債権者の主張が間違っていた場合に備えた担保金であり、仮差押さえの対象になる債務者が、手続きにおいて被害を被ったと判断された場合、損害賠償金として保証金が債務者へ支払われます。
強制執行は、債務者の財産を差し押さえるため必要な手続きである反面、簡単な手続きでない上に、債権回収できる見込みはありません。そのため、債務名義を取得する前の債務者の財産調査が必要になります。
また、財産調査や当記事で紹介した強制執行、仮差押さえなどの手続きは、法律の知識を要することから、弁護士などの専門家に依頼するのが確実な方法です。
強制執行は相手の権利を大きく制限する手続きです。
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また強制執行の方法と対象は債務者が特定しなければならないのです。
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