
借家人から家賃を支払ってもらえず、保証人へ滞納分を請求する場合、相手が連帯保証人であれば請求の基本的な流れは借家人の場合とほぼ変わりはありません。ただし相手が保証人の場合には一定の考慮が必要です。
今回の記事では、滞納家賃を(連帯)保証人に請求する場合のポイントなどについて解説します。
保証人の責任
民法446条1項では「保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。」とされています。この意味は、保証人は借家人の債務を自ら履行する責任があるということです。
なお、保証人の責任の範囲は広く、民法447条1項は「保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する」としています。
したがって、例えば借家人の保証人は、借家人が賃料を支払わない場合はもちろん、借家人が賃貸借契約終了後も借家を明け渡さない場合の損害賠償義務についても自ら負担する必要があります。
もっとも、保証人(連帯保証人ではありません)には、債権者からの請求に対して次の2つの抗弁権が認められています。
催告の抗弁権
保証人は家賃の支払請求をされても、まず借家人に請求すべきことを貸主に求めることが出来ます(民法452条本文)。これを「催告の抗弁権」といい、保証債務の補充性から認められている権利です。
例えば、貸主がA、借家人がB、保証人がCだとすると、AがCに対して家賃支払請求を行っても、Cは「まずはBさんに支払請求を行って下さい」と反論を行うことが出来ます。
ただし、借家人が破産手続開始の決定を受けたときや、その行方が知れないときなど、そもそも催告自体が不可能な場合は当該抗弁は認められません。
検索の抗弁権
保証人は、貸主からの請求に対して「借家人に資力があり、かつ執行が容易であること」を証明して、まず借家人の財産に執行するよう求めることができます(民法453条)。これを「検索の抗弁権」といい、これも保証債務の補充性から認められている権利です。
例えば、上記の例でいえば、AがCに家賃支払請求を行っても、Cが「Bに支払能力があり、強制執行が容易であること」と証明できれば、Cは「まずはBさんの財産に強制執行してください」と主張して支払いを拒むことができます。
なお、保証人がこれら抗弁権を行使した場合、貸主が借家人への対応を怠って回収ができなくなった際は、その限りで保証人は支払義務を免れることになります(例えば、滞納家賃が150万円だったとして、Cが上記の抗弁権を行使した場合、AがすぐにBへ支払請求を行っていれば満額を回収できたのに、それを怠って時間が経ってしまったために100万円しか回収できなかったとしても、残りの50万円をCに請求することは出来なくなります)。実務的にはあまり利用されていない権利ではありますが、一応、貸主側は気をつけなければなりません。
他方、連帯保証人の場合は、上記の2つの抗弁権は認められていません(民法454条)。連帯保証人は借家人と同列に扱われるため、借家人が家賃を滞納したときは、直ちに連帯保証人に請求することができます。
借家人以外の者に滞納家賃を請求する際は、「その者が保証人なのか連帯保証人なのか」事前に確認しておくべきでしょう。
滞納家賃を保証人に請求する場合の方法
滞納家賃を(連帯)保証人に請求する場合、以下のような方法があり得ます。
協議・交渉
保証人に対し、電話・Eメール・書面等で、事情を説明して任意の支払いを求める方法です。
もし法的手続まで視野にいれるのであれば、内容証明郵便で書面を送付することも検討に値します(内容証明が来たことによる心理的圧迫から任意の支払いをしてくれるかもしれません)。
書面での請求の一例として、例文を載せておきます。
令和○年○月○日 asiro 三郎様 〒○○○-○○○
賃料支払い請求書 当方とアシロ太郎様との間の○○○マンション○○○号室の賃貸借契約において貴殿が連帯保証させている下記の賃料が滞納されております。
幾つかの督促の末、アシロ太郎様から支払いをしていただけなかったため、大変恐縮ですが、連帯保証人である貴殿がアシロ太郎様に代わり、下記の滞納分の賃料の支払いを令和○年○月○日までに下記口座まで振込していただけるようお願い致します。 記 1.物件名:○○○マンション ○○○号室 以上
|
訴訟などの法的手続
相手が任意の協議・交渉に応じなかったり、支払いをしないような場合は、訴訟などの法的手続きを検討することになります。これら手続きは本人のみでも行うことができますが、やはり餅は餅屋ということで弁護士への相談も検討しましょう。訴訟手続きはある程度の知識と経験が必要ですので、弁護士のサポートを受けることを強く推奨します。
訴訟手続では、和解又は判決により借家人や(連帯)保証人に家賃支払義務が確定的に認められれば、両名が任意で支払いをするかもしれません。もし、それでも支払いをしない場合は、このような和解や判決の内容を「債務名義」として強制執行手続を申し立て、相手の財産を差し押さえるなどして強制的な回収を図ることも可能となります。
家賃滞納を保証人へ請求する前に知っておきたい3つのポイント
(連帯)保証人に家賃を請求するに当たって、気をつけなければならないポイントがいくつかあります。以下の3点には注意が必要です。
強引な請求は避ける
相手に対する連絡は、当然、常識の範囲内で行うべきです。
例えば、以下のような督促行為は常識を欠くと判断される場合もあります。悪質な場合は違法な権利侵害行為として損害賠償の対象となり得ますし、最悪、犯罪となる可能性もあります。
家賃債務には時効がある
家賃債務にも消滅時効があり、法律で定められている期間内に権利を行使しなければ権利は消滅します。具体的には、家賃債務の時効期間は5年です(民法169条)。時効の起算点(いつから数えて5年か)は、「賃貸借契約書で定められている支払日の翌日」であるのが通常です。
例えば、賃貸借契約書に「当月分を翌月末日までに支払う」とある場合、令和元年6月分家賃の時効起算日は令和元年8月1日であり令和6年7月31日の経過で時効が完成します。
もっとも、時効は所定の手続によりリセットすることができます。具体的には以下の事由があれば、その事由が終了したときから新たに時効が進行します(民法157条)。これを時効の中断といい、以下事由を「中断事由」といいます。
早期解決のためには弁護士への相談がおすすめ
借家人やその(連帯)保証人との賃料トラブルを早期に解決したいならば、弁護士へ相談することをおすすめいたします。
弁護士は、高度な知識と豊富な経験を有し、上記のようなトラブルが起きても、迅速かつ適切に解決へと導きます。また訴訟に発展した場合でも、代理人として引き続き事件を担当してくれるので、改めて専門家に依頼する手間が省けます。
また内容証明の作成代行を実施している弁護士も多く、弁護士名義での作成も可能です。弁護士名義で内容証明郵便を送ったところ、トラブルが早期解決したということもあるようです。
まとめ
滞納家賃を保証人に請求する際のポイントを説明しました。
滞納分が少額のうちに(連帯)保証人に働きかけることで、家賃を全額回収する可能性も高まるため、なるべく早期の対応を心がけましょう。その際は、弁護士のサポートを得ることで早期解決が見込めます。

【LINE相談】【初回相談0円】【全国対応】【早朝夜間・土日祝・当日対応】売掛金、賃料、損害賠償請求、家賃・地代、立替金、高額投資詐欺での回収実績が豊富にあります。※50万円未満のご依頼は費用倒れ懸念よりお断りしております
事務所詳細を見る
【投資詐欺に注力!】【相談料0円】経験豊富な弁護士があなたの代わりに返金請求◆「詐欺かも?」と感じたら、すぐにご相談を!詐欺被害者のご家族からのご相談も承っております◆身元の特定や振込先の口座凍結も可能です!
事務所詳細を見る
【弁護士歴10年以上/2,800万円の高額差し押さえ実績有◆メール予約歓迎・夜間面談・WEB会議可能◆債権額150万円~◆個人・企業・個人事業主からの相談対応◆顧問先多数◆相手が破産前に交渉・強制執行等で迅速回収
事務所詳細を見る当サイトでは、有料登録弁護士を優先的に表示しています。また、以下の条件も加味して並び順を決定しています。
・検索時に指定された都道府県に所在するかや事件対応を行っている事務所かどうか
・当サイト経由の問合せ量の多寡
債権回収でお困りなら弁護士へ無料相談がおすすめ
債権回収では、相手の出方や債権額によってはあまり効果が期待できない場合もあり、自分だけで債権回収を行なおうとしても適切な方法を選択することは難しいでしょう。
そもそも、今の状況でどのような方法を取ればいいのかを提案してくれる弁護士は、相談だけでも力強い味方となってくれます。
「ベンナビ債権回収(旧:債権回収弁護士ナビ)」では、債権回収を得意とする弁護士に直接ご相談ができ、相談料無料、初回の面談相談無料、全国対応で相談を受け付けいる事務所も多くいますので、法人・個人問わず、お金のことで悩み続けているなら、一度債権回収が得意な弁護士にご相談ください。

家賃滞納・明渡・立退きに関する新着コラム
-
立ち退き請求をおこなうときは、弁護士に依頼するのがおすすめです。法的根拠を持って、スムーズに交渉や手続きを進めてもらえるうえ、当事者間の話し合いによる余計なトラ...
-
賃貸の明け渡しについて悩んでいる方は、弁護士との無料相談がおすすめです。相談の際の注意点や必要な書類について知っておくとスムーズに相談が進むでしょう。本記事では...
-
新型コロナウイルスの影響で収入が減りテナント料を「今だけ減額してほしい」と願い出てくるテナントがあるかもしれません。この記事では、テナント料を減額すべきか、また...
-
強制退去(きょうせいたいきょ)とは、借家人を法的な強制力をもって部屋から退去させることで、具体的には建物明渡請求を行い、明け渡しの勝訴判決を受けて執行されるもの...
-
家賃滞納され、一向に支払われない大家・管理会社が相談できる相談窓口をまとめました。また、弁護士に依頼した場合の流れやよくある質問についてご紹介します。
-
家賃滞納者を強制退去させることは可能です。しかしそのためには、いくつかの条件をクリアし、法的にきちんとした手順で進行していく必要があります。
-
問題のある借家人を強制退去させるなら、弁護士に依頼することでスムーズに手続きを進められると同時に、面倒な手続きを依頼することができます。この記事では、弁護士に依...
-
借家人への立ち退きを検討している方は、弁護士に任せることで穏便かつスムーズな解決が望めます。そこで今回は、依頼時の弁護士費用、安く済ませるコツ、弁護士の選び方、...
-
賃貸人は、借家人の退去にあたって原状回復を請求するのが通常です。今回の記事では、原状回復請求についての簡単に解説します。
-
保証人へ家賃滞納を請求するにあたっては、保証人の権利等について押さえておくべきです。今回は、家賃滞納を例として保証人に支払いを求める場合について解説します。
家賃滞納・明渡・立退きに関する人気コラム
-
家賃滞納者に対する対応には多くの賃貸経営者が頭を悩ませているのではないでしょうか。今回の記事では家賃滞納者に対しての督促の方法や、具体的な督促状の書き方について...
-
家賃滞納者を強制退去させることは可能です。しかしそのためには、いくつかの条件をクリアし、法的にきちんとした手順で進行していく必要があります。
-
合法的且つスムーズに強制退去させる方法を模索している人向けに、強制退去に至るまでの流れや注意点などをまとめました。強制退去は、法律厳守が重要です。弁護士に強制退...
-
明け渡し合意書とは、建物明け渡し訴訟提起前の和解手続の申し立てに必要な書類のことです。この書類の書式と書き方のポイントをまとめました。
-
強制退去(きょうせいたいきょ)とは、借家人を法的な強制力をもって部屋から退去させることで、具体的には建物明渡請求を行い、明け渡しの勝訴判決を受けて執行されるもの...
-
家賃を滞納し続ける借家人がいる場合「明け渡し訴訟」を検討することをおすすめします。この記事では、明け渡し訴訟をする全ての手順とタイミングなどをご紹介します。訴訟...
-
家賃滞納の問題は不動産を運営する方なら誰でも避けて通れない道だと思いますが、今回の記事では内容証明の作成方法から催告書を郵送したのに効果がなかった場合の対処方法...
-
強制退去を行うならば費用は必ずかかりますし、強制退去後は滞納された家賃分はもう戻ってこないものと覚悟しておかねばなりません。
-
家賃滞納とは、借主が賃貸人(大家さん)へ納めるべき賃料(家賃)の支払いを怠っている状態を指します。この記事では、大家さんに向けて家賃滞納をされた場合の対処法を、...
-
今回の記事では、家賃滞納者へ強制執行を介して、物件の明け渡し、賃料の回収をするために必要な手続きの流れについてまとめました。
家賃滞納・明渡・立退きの関連コラム
-
家賃を滞納している借家人に対して明け渡し請求(立ち退き請求)を検討されているオーナー様は多いのではないでしょうか。無理に請求を進めてトラブルにならないよう、請求...
-
家賃滞納者を強制退去させることは可能です。しかしそのためには、いくつかの条件をクリアし、法的にきちんとした手順で進行していく必要があります。
-
借家人から滞納家賃を支払ってもらうことが難しい場合は、保証人からの回収を検討しましょう。そこで今回の記事では、家賃を滞納された際の保証人への連絡方法や、連絡時の...
-
家賃滞納者に対する対応には多くの賃貸経営者が頭を悩ませているのではないでしょうか。今回の記事では家賃滞納者に対しての督促の方法や、具体的な督促状の書き方について...
-
家賃を滞納され部屋を占拠されているという状態は、オーナー様としてはすぐにでも対処しなければならないものです。
-
「保証人に家賃支払いを求めたら拒否されてしまった…」という場合、どうすればよいのでしょうか。今回は、保証人が保証債務の履行を拒否した場合の対応について簡単にご紹...
-
強制退去を行うならば費用は必ずかかりますし、強制退去後は滞納された家賃分はもう戻ってこないものと覚悟しておかねばなりません。
-
借家人への立ち退きを検討している方は、弁護士に任せることで穏便かつスムーズな解決が望めます。そこで今回は、依頼時の弁護士費用、安く済ませるコツ、弁護士の選び方、...
-
借家人への立ち退きを検討している中には、「トラブルになりそう…」「進め方がわからない」など不安を抱えている方も多いことでしょう。この記事では、立ち退き交渉の進め...
-
賃貸の明け渡しについて悩んでいる方は、弁護士との無料相談がおすすめです。相談の際の注意点や必要な書類について知っておくとスムーズに相談が進むでしょう。本記事では...
-
管理費の滞納を防止する方法に加えて、滞納した管理費を回収する方法を紹介していきます。
-
合法的且つスムーズに強制退去させる方法を模索している人向けに、強制退去に至るまでの流れや注意点などをまとめました。強制退去は、法律厳守が重要です。弁護士に強制退...