債権者保護手続き(さいけんしゃほごてつづき)とは、組織再編を行う際、自社の債権者の利益を保護する目的で、組織再編を行う通知、組織再編に対する異議を述べる機会を与えるための手続きです。
経営上の判断として、会社分割や合併などの組織再編が必要な場合がありますが、会社の資産、債務状況に影響を与えかねないため、自社の債権者にとっては無視できることではありません。
そのため組織再編を行った際には、自社の債権者達へその旨を伝達する必要がありますが、債権者から異議を申し立てられる場合もあります。
今回の記事では債権者保護手続きについて、手続きの方法から異議を申し立てられた際の対処法、手続きの際の注意点についてまとめました。
債権者保護手続きが必要になる場合
冒頭でもお伝えしましたが、債権者保護手続きとは、債権者の利益を保護するための手続きです。主に会社分割や合併など組織再編をする際に、必要になりますが、資本金の減少、負債額が増加など、債権の弁済に支障がでるかもしれないためです。
しかしながら、組織再編を行ったからといって必ずしも債権者保護手続きが必要なわけではありません。そこで、どのような場合に債権者保護手続きが必要になるのかシチュエーションに分けて確認していきたいと思いますが、その前に債権者について例をとって説明していきたいと思います。
そもそも債権・債務の基本的な意味や違いが気になる方は、こちらで詳しく解説しています。
債権者の例
債権者についてわかりやすい例から説明すると、まずは銀行をイメージしてください。自社の運用資金を設けるために銀行から融資を受ける会社は多いと思いますが、最もわかりやすい債権者の例です。
次に債権者の例として、取引先の会社が考えられますが、取引先の会社が取り扱っている商品を、自社で販売する場合を想定してください。この時、その商品に関する売買契約は、商品の売れ行きによって生じた利益を元に、取引先から発注した商品の買掛金を弁済する内容とします。
当然、取引先の会社は、自社に対して商品に関わる売掛金(債権)を所有しているため、自社にとっての債権者です。では債権者保護手続きが必要なシチュエーションについて確認していきましょう。
債権者が保有する債権にはいくつかの種類があり、発生原因や目的によって性質が異なります。債権の種類について詳しく知りたい方は、こちらで詳しく解説しています。
会社分割
まず会社分割において説明していきますが、会社分割とは自社で扱っている事業をより成長させるために用いられる組織再編であり、吸収分割と新設分割の二つに分けることができます。
吸収分割
吸収分割は、自社で扱っている事業を専門としている部門、または部署を人員含めて、他社へ吸収してもらう組織再編行為になりますが、主に採算の取れていない事業を、その事業の取り扱いに優れた会社へ引き継いでもらうために利用される手続きです。

上記の図を例に考えていきますが、吸収分割の際、承継会社(B)については、原則としてすべての債権者に対して債権者保護手続きが必要です。
吸収分割において、事業(β)を引き継いだ対価として、承継会社(B)から分割会社(A)へ承継会社(B)の株式または資産が渡されるのが一般的です。
当然ながら、承継会社(B)の資産が減少するため、自社の全ての債権者の利害に関わるため承継会社(B)は債権者保護手続きをしなければなりません。
一方、分割会社(A)については、債権者保護手続きが必要かどうかは債権者ごとに異なります。分割後も分割会社(A)に対して債務の履行を請求できる債権者については、原則として手続きは不要です。
ただし、事業(β)に携わっていた債権者のうち、承継会社(B)へ債務者が変わり、分割会社(A)にはもう履行を請求できなくなる債権者や、分割の対価として株式以外の財産が株主へ交付されるなど分割会社(A)の財産状況に影響が及ぶ場合の債権者については、分割会社(A)においても債権者保護手続きが必要です。どの債権者が対象になるかは個別の分割契約の内容によって異なるため、詳しくは後述する「債権者保護手続きが不要な場合」もあわせてご確認ください。
新設分割
新設分割とは、自社で景気の良い事業を運営している部門を新しい会社として新設するための組織再編行為です。
新設分割する際、一般的にその事業における債務者が、分割会社(元の会社)から新設した会社へ変わるため、債権者にとって資金力の乏しい新設会社が新たな債務者になることはリスクが生じます。
そのため新設分割において、新設会社が承継する事業に関する債権者のうち、新設会社にのみ履行を請求でき、分割会社にはもう請求できなくなる債権者に対しては、分割会社側でも債権者保護手続きが必要になる場合があります。他方、新設会社に関しては元々、債権者がいないため債権者保護手続きをする必要はありません。
合併
合併は、自社の事業を拡大するため、不得手なところを補うために行われる組織再編行為です。運営上の目的があった上で合併は行われますが、合併先の会社が負債を抱えている場合もあります。
自社の債権者にとっては負債が大きくなることで弁済が行われるのかリスクがあるため、この場合、債権者保護手続きをしなければなりません。
債権者保護手続きが不要な場合
組織再編において、債権者保護手続きが不要な場合がありますが、会社分割において「債務の移転がない場合」、「従来の債務者へ請求できる場合」の2点です。
債務の移転がない場合
債務の移転がないということは、債務者が変わることがないということであり、債権者は分割会社へ債務の弁済をしてもらうことになります。会社分割において分割会社は資産や株式を受け取ることはあっても、会社自体の資産や負債額が変動することはないため、この場合、債権者への影響はありません。
そのため分割会社は債権者保護手続きをする必要がありませんが、継承会社(事業を引き継ぐ)は債権者保護手続きをする必要があります。
先ほど説明した通り、継承会社は事業を引き継ぐ代わりに資産や株式を譲渡しているためです。継承会社の資産状況が変動するため、自社の全ての債権者に影響が及ぼします。
従来の債務者へ請求できる場合
また、債務は移転するけど、元の分割会社へ債務の弁済を請求できる場合も、債権者保護手続きをする必要はありません。
債権者からすれば、ちゃんと弁済してもらえるのかどうかが問題であるため、債務者が変わっても元の債務者へ弁済の請求ができるのであれば弁済に関する心配事がないためです。
債権者保護手続きの方法とその手順
では債権者保護手続きの方法を順追って確認していきましょう。まず、通常債権者保護手続きとは、官報公告と個別通知の二つの手続きをすることであり、手続きを完了させるまでに最低でも1ヶ月以上は要します。
①官報公告への掲載
官報公告とは、法令上の義務に基づき、債権者や取引先に重大な影響を及ぼす事項を決定した際、官報(行政の機関紙)を通じて公的に知らせることです。申込方法に関しては詳しくは、「入力フォームからの申し込み|官報公告」を参考にしてください。
掲載内容
掲載する内容は、「組織再編に関する内容」「組織再編に関わる会社の商号・住所」、「資本金の額・負債額の変動額」、「当時会社間の計算書類」、「債権者の異議を述べることができる旨」になります。
官報公告の例(雛形)
吸収分割における官報公告における雛形として以下を参考にしてください。

この公告においては乙が分割会社であり、甲が承継会社に該当します。
②知れたる債権者に個別の催告
官報公告への掲載が完了次第、今度は知れたる債権者へ個別の催告をするのが次の流れです。
知れたる債権者とは
知れたる債権者とは、会社間の組織再編に関わる債権者であり、会社分割を例に取ると、事業の継承を通して債務者が変更する債権者が知れたる債権者に該当します。通知方法の指定はありませんが、通知する内容は公告と同じ内容で問題ありません。
③債権者異議を申述された場合の対処法
もし債権者保護手続きの申述期間内に異議を申述されなければ、債権者から組織再編を承認されたことになりますが、異議を申述された場合は、債権者に対して弁済をするか、弁済に相当する担保の提供、または財産を信託しなければなりません。
しかしながら、会社法上、当該組織再編を行っても当該債権者を害するおそれがないと認められる場合には、弁済等の手続きを経ずに組織再編を進められるとされています。実務上は、そのように判断した根拠を説明する上申書を登記申請の際に法務局へ提出して手続きを進めるケースもありますが、「債権者を害するおそれがない」と言えるかどうかの判断には専門的な検討を要するため、自己判断せず弁護士に確認することをおすすめします。
④組織再編の登記
債権者保護手続きが完了したら、本題の組織再編の登記を行いましょう。組織再編の登記は法務局にて申請を行いますが、詳しくは「商業・法人登記申請|法務省」を参照にしてください。
また、申請の際は、申請する会社が債権者保護手続きにおける公告、催告をした事実を証明する書面(官報の紙面)を添付いたします。
債権者保護手続を行う上での注意点
では最後に債権者保護手続きをする上での注意点について確認していきましょう。
組織再編の登記の前に手続きを完了させる
もし、会社分割、合併などの組織再編を行う際、規定された組織再編の施行日の前までに債権者保護手続きが完了していない場合、組織再編の効力は発生しません。
この場合、例え施行日の後に、債権者保護手続きを完了させても、組織再編のための手続きを始めからやり直すことになります。そのため組織再編の登記の前までには、債権者保護手続きを完了させましょう。
個別催告の債権者に漏れがないようにする
そして次に注意点して欲しいポイントは、個別催告をする際、債権者に漏れがないようにすることです。もし、個別催告の対象となる債権者にも関わらず、催告を受けなかった場合、その債権者は組織再編に対して訴訟を起こすことができます。
そのため、知れたる債権者に対する個別催告の漏れがないようにしましょう。
官報公告や個別催告に漏れがあると、組織再編の効力が認められなかったり、後から債権者に訴訟を起こされたりするリスクがあります。手続きが適正に進められているか自社だけでは判断が難しい場合は、弁護士に確認してもらうと安心です。初回相談無料やオンライン相談に対応している事務所もあるので、気軽に相談するのがおすすめです。
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まとめ
会社の運営上、会社分割や合併などの組織再編が必要に迫られる場合がありますが、手続きを無事に完了させるためにも債権者保護手続きの方法は抑えておくべきです。これから組織再編を検討されている法人の方に今回の記事を参考にしていただけたらと思います。
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